日本のビスケット市場は"おいしい"のか
「日本のビスケット事業に貢献できると確信している」と辺氏は自信たっぷりに語る。
その根拠は、縮小が叫ばれるガム・キャンディ市場にある。モンデリーズ・ジャパンは国内で「クロレッツ」や「リカルデント」といったガム・キャンディを展開してきた。「縮小市場ではあるが、粒ガムや機能性を持つガムによって下げ止まってきた。モンデリーズ・ジャパンは需要回復を牽引する存在だ」と説明する。
ガムとは異なり、日本のビスケット市場は好調だ。2013年に比べて2015年は小売金額が13.8%増。高価格帯のプレミアムなものや季節商品の調子が良い。マウリッチオ・ブルサデリ氏は「多くのチャンスがあるアジア市場だが、特に日本は成長の可能性がとても高い」と評価。モンデリーズ・インターナショナルの2015年度売上は300億ドル。そのうち4割がビスケットなのだが、地域別でみるとアジアパシフィック市場が16%を占める。割合でみれば小さいが、今後の伸び率に期待しているのだろう。
モンデリーズ・インターナショナルの売上で最も高い割合を占めるのがビスケットだ |
日本のビスケット市場は、サンド系やチョコ系といった多種多様な商品が存在すること、販売金額シェア1位でも7.5%と全体に占める割合が低いことも特徴 |
辺氏が自信をみせるもうひとつの根拠は、健康志向のビスケット「belVita」(ベルビータ)だ。belVitaは朝食用ビスケットを謳い、現在50カ国以上で展開している。マウリッチオ・ブルサデリ氏いわく「売れ行きは絶好調」で、特に中国では2015年9月の発売からすでに5,000万ドル以上を売り上げた。日本での展開についてはまだ具体的に決定していないが、前向きな姿勢をみせている。高価格帯のビスケットが売れているほか、グラノーラ専門店が登場するなど、にわかに「健康志向×朝食」の市場が盛り上がりつつある日本では受け入れられそうだ。
belVita(左)とBarni(右)。belVitaは全粒粉が入ったチョコチップクッキーのような味で、Barniはスポンジケーキのようなお菓子 |
さまざまなレシピ提案も積極的に行っていく。写真はオレオ、リッツ、プレミアムのアレンジ例だ |
2016年9月から3ブランド8製品を投入するわけだが、その前後にはレシピ提案などのマーケティングを積極的に行っていく。さらに、2017年にはオレオが日本で発売されてから30周年という節目を迎える。具体的なプランは未定ながら「何かしらのイベントは行いたい」(辺氏)とのことだ。
ヤマザキナビスコにとってのメリット
日本にビスケットという食べ物が浸透したのはヤマザキナビスコの功績も大きい。ヤマザキナビスコはそもそもの成立が山崎製パンと日綿實業(現在の双日)、米ナビスコ社との合弁会社であり、45年以上にわたってナビスコブランドの周知に貢献してきた。そんなヤマザキナビスコに対して、辺氏は「大変感謝している」とコメント。今回の1件には、生みの親が育ての親から子を奪うような印象をどうしても抱いてしまうが、ライセンス契約終了はヤマザキナビスコにとってのメリットもある。
そのひとつが海外への展開だ。これまではライセンス契約によって制限されていたが、ヤマザキナビスコのビスケットを海外でも販売できるようになる。すでに山崎製パンは「東南アジアをはじめとする海外市場」(プレスリリースより)に展開すると表明済みだ。
「チップスター」や「エアリアル」、「レモンパック」といったオリジナルのお菓子は、引き続きヤマザキナビスコが製造・販売していく。さらに、2017年12月以降はオレオ、リッツ、プレミアム、チップスアホイ類似品についての制限が解除されるため、ヤマザキナビスコが「競合品」を開発することも十分にありえる。辺氏はヤマザキナビスコを「ともに日本のビスケット市場を成長させ、盛り上げていく存在」とした。
モンデリーズ・ジャパンが発売の4カ月も前に発表会を開催したのは、「少しでも早く成果物を見せたい」という思いから。パッケージデザインなど細かいことはまだ定まっておらず、想定価格なども明らかになっていないが、気合いの入りようと誠実さを感じられるタイミングだったといえる。