やるからには外に開く

――先日の日本アカデミー賞授賞式では「日本の映画人みんなで祝えるイベントにするために、改革をしなければならない」という発言をされましたが、是枝監督から見える今の映画界の姿を教えていただければ。

日本映画界とは、何かよくわからない部分もありますが、たとえるなら、ガラパゴス化した村社会ですかね(笑)。もちろん、日本アカデミー賞のように、尊敬するスタッフとキャストが集まってお祭りをするのは、とてもいいことです。ただ、やるからにはもっと外に開かないと、とは思います。

――外に開く、とは。

本当に日本映画を豊かにしてくれた、日本の映画人と映画史に対するリスペクトに支えられた時間と空間にしていかないと、中継する意味がなくなってしまいます。業界の内輪のお祭りになってはいけない。その歴史的な視野が欠けている。

僕ももともとがTVディレクターですから、あの場に座っているだけではなくて、機会があれば演出にまわってみたいですね(笑)。あれだけの時間、あれだけのキャストがいるんだから。映画に関わるのはすてきなことだなと思わせる、絶好のアピールの場です。

豊かな日本映画の歴史を大切にしたい

――賞が変わっていけば、日本の映画自体も開かれていくと……。

たぶん、もうちょっと上の人たちが考えないとですね。先ほどガラパゴスと言いましたが、良い面もあるんです。日本のように、国内興行だけで製作費がペイできる仕組みがまだ残っている国は、世界的に見ると珍しいでしょう。そこは、誇りに思っていいと思うんですよね。

――いい意味でも悪い意味でもガラパゴス化しているのでしょうか。

こんなに豊かな映画の歴史を持ってる国なんだから、その財産をまっとうな形で、プレゼンしたいという思いはあります。日本映画の歴史をふまえて、作品も人材も、独立した文化としてもう少し世界に開いていかなければ。日本アカデミー賞にしても、例えば若尾文子さんや京マチ子さんを会場にお呼びして、みながスタンディングオベーションでむかえるような時間があったらいいなと思います。

若い方には、ぜひ映画を誇りに思って、未来に希望を感じてほしい。だけど名実ともに、彼らが夢見ている映画界にするためには、本当はしなくちゃいけないことが山程あると思うんです。

――今後は内側から変えていきたいというお話もありましたが。

でも、僕も日本アカデミー賞に呼ばれてまだ2年ですから。あの中に自分のポジションを見つけようと思ってもいないので、好きなことを言えるんです(笑)。好きなこと言える立場の人が好きなこと言って、その声に多少なりとも耳を傾けてくれる人がトップにいれば、変わっていくと思います。期待はしていませんが、言い続けますよ。

『海よりもまだ深く』
笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多(阿部寛)。15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、今は探偵事務所に勤めているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。元妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ、息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子(樹木希林)だ。ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。

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