最近、目にする機会が多くなった「健康経営」。従業員などの健康管理を経営的な視点で考えて、それを戦略的に実践する経営手法である。企業が健康経営に取り組むことで、従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化やブランド化をもたらし、結果的に企業の業績や価値向上にまでつながるとされている。アベノミクスが掲げる「データヘルス計画」の中でも、健康経営について明示的に取り上げられており、いま国を挙げて注力していく流れが加速しつつある。

健康経営に取り組む企業を社会的に評価しようとする動きも活発になってきており、とりわけ経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」への注目度は年々高まっている。そこで今回、経済産業省の担当者に、2回目の健康経営銘柄の結果や選定過程から見えてきたこと、今後の方針などについて話を聞いた。

健康経営銘柄は投資の指標に

健康経営銘柄とは、従業員への健康保持・増進活動を推進する企業を認定する試みである。2015年度よりスタートし、初年度は東証に上場している企業のうち22社が認定された。

今年の1月には、2回目の「健康経営銘柄」として25社が選定されている。その顔ぶれを見ると、前回から連続して選定された企業が14社、初選定が11社となっている。業種は電気機器や精密機器、建設業、保険業など多岐にわたっているが、いずれも誰もが知る大手企業ばかりだ。健康経営銘柄に選定されるのは、業種区分で1業種1社と決まっているため、さまざまな業種から選ばれている。選定にあたっては、経済産業省が国内の全上場企業3,605社を対象に実施した「平成27年度 健康経営度調査」の回答結果を、「経営理念・方針」、「組織・体制」、「制度・施策実行」、「評価・改善」、「法令遵守・リスクマネジメント」という5つのフレームワークから評価した上で、財務面でのパフォーマンスなどを勘案して行われる。

「健康経営銘柄2016」選定の流れ

銘柄を選定する基準は、大きく以下の2つである。

  1. 「健康経営度調査」の総合評価の順位が上位20%以内であること
  2. 過去3年間のROEの平均値が業種平均以上または8%以上であること

ほかにも、重大な法令違反などがないことも重要視される。

経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 係長の丸山勇紀氏はこうコメントする。「今回の健康経営度調査の評価結果上位20%の企業の時価総額を見てみると、第1回に引き続きTOPIXを上回る水準で推移していますし、これが健康経営銘柄選定企業となるとさらに上回っています。この事実からも、健康経営と企業の実績や価値には相関関係があるとする仮説が補強されることとなり、投資指標としての活用が一層期待できるものと見ています」

時価総額の推移

今回の健康経営度調査の回答率は15.9%で、前回の493社から80社増となる572社が回答している。このうち今回から新たに回答を寄せた企業が261社となっており、全回答企業の45.5%を占めている。

丸山氏は言う。「第1回の調査に回答いただいた企業のうち、2回目では回答を辞退した企業が約200社ありました。理由としては、『昨年と特に変わった取り組みはしていない』『うちは上位には入れないのでもっとレベルアップしてから参加したい』といった内容が目立っています。健康経営と企業業績などの関係性に関する研究を深めるためにも少しでも多くの企業からデータを蓄積することが大事なので、継続して回答いただいた企業には何らかのインセンティブを提供するなどの工夫も今後検討する必要があるかもしれません」