『ミガクル』の収益源は大きく分けて二つある。
一つは、言うまでもなく顧客から受け取るサービス料だ。しかし、1足1000円~2000円と、既存の靴磨きサービスと遜色ない料金設定。それでは「宅配」や「出張」などのコストを負担したうえで、利益を出すのは困難だ。
「そこで『ミガクル』は違うスタイルで、宅配や出張を実現させている。実は靴磨きを依頼するお客様以外から収益を得ているんですよ」(堀江さん)。
それが二つ目の収益源、「広告代理業」である。具体的には、スポンサー企業の提供している商品やサービスのチラシを、靴磨きの顧客むけに配布する。「宅配ミガクル」では必ず磨いた靴を返却する復路便にこのチラシを同封して送る、「ミガクルOfiice」ならば直接靴磨きで企業に行ったときに、チラシを手わたしする、といった具合だ。
宅配で靴磨きを頼むような個人顧客は靴にそれなりのコストをかけることを躊躇しない「ある程度の所得と意識の高いビジネスマン」だと想像できる。福利厚生で「靴磨き」を用意するような企業も、同様だろう。つまり『ミガクル』は、極めてセグメントされた層にリーチできる状態にあるわけだ。
「こうしたお客様の興味がありそうなチラシ。たとえばオーダーメイドスーツや不動産、クレジットカードといったスポンサー企業の方々のチラシを磨いた靴と一緒にお届けしているんです。スポンサー企業にしてみたら、無作為にポスティングするよりも費用対効果はずっと高いし、読まれる確率も高いので好評を得ています」(堀江さん)。
得た広告料は、そのまま宅配や出張のコストに回すことができる。こうして『ミガクル』は本来、高コストになるはずの出張&宅配靴磨きを、店舗型のサービスと同等の価格で提供できるようになっているわけだ。この「三方良し」の仕組みこそが、『ミガクル』の強みであり、顧客に支持される理由だ。
「広告収入のアイデアは、ソフトバンクで法人営業を担当していたことからも着想を得ました。一度、取り引きがはじまって信頼をいただけると、『実はプリンタの買い替えも考えている』『ついでにプロジェクターもほしいので調べてくれ』などとお仕事を芋づる式にいただける。同じように靴磨きから入って利便性を感じてもらえれば、同じようにお客様の窓口になることはあるんじゃないかと思ったんです」(堀江さん)。
実際の靴磨き業は、堀江さん自身も他店舗での修行などを経た後に担当している。キャリアはまだ短いため、業界には技術的にずっと優れた名人もいるが、「営業的な視点をもった靴磨き職人や会社は少ない。それが強み」と胸を張る。
将来は、「靴磨きを頼むなら、駅前の靴磨き屋にするかミガクルに出すか…」となるほどメジャーなサービスになることを目指している。
「今はまだ『靴磨きで起業した』というと、『大丈夫?』『食べられる?』と聞き返されることが多いんですけどね(笑)。ただ、そんなふうに昔のイメージで認識されている業界にこそ、実はまだまだ伸びるチャンスが眠っている。ブルーオーシャンなんだと思います」(堀江さん)。
堀江さんが、日々、靴と共に磨いているのは、そんな未来の可能性だ。
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