滲出性中耳炎の段階的治療法
病院では、段階に応じた治療法がとられます。まずは抗生物質による薬物治療。かなり昔は、抗生物質がなかったために菌を駆逐できなかったのですが、現代では抗生物質によって完治が期待できます。その結果、慢性中耳炎に移行するケースは昔と比べて減少しました。また、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の合併症の可能性があるときは、その治療として、薬物治療や鼻洗浄・鼻処置、鼻ネブライザー(薬液を霧状にして鼻や口から吸入する治療法)などを行います。
そして、外科的な治療へ。その1つは、鼓膜を切開した後に小さなチューブを穴に差し込む「鼓膜換気チューブ留置術」。チューブを挿入することで、穴がすぐに閉じて再発しやすくなることを防ぐ方法です。
もう1つは、アデノイド増殖症の治療で行われる「アデノイド切除術」です。アデノイド増殖症とは、のどの上部にあるアデノイド(咽頭扁桃)が肥大化する子供特有の病気。バイ菌の巣ができやすくなり、鼻呼吸障害や、耳管(中耳と鼻の奥の咽頭部をつなぐ管で、あくびやつばの飲み込みで開きます)機能障害が起きることで、滲出性中耳炎を起こしやすくなります。
大人が気づいてあげることが大切
急性中耳炎の原因はウイルスや細菌の感染ですので、うがい・手洗いによる予防が有効です。そして、滲出性中耳炎や慢性中耳炎の予防法は、急性中耳炎を完治させること。急性中耳炎になった場合は、放置せずに早めにかつ完全に治療を行いましょう。発熱や耳の痛みが改善しても、まだ鼓膜に発赤(皮膚や粘膜の一部が赤くなること)が残っていて治りが不完全なこともよくあります。
また、滲出性中耳炎は気づきづらい病気ですので、周りの大人が注意して見てあげることも大切。前述したとおり、よく鼻をすすっている、ひどいいびきをかいている、耳が聞こえづらい様子が見られるといった症状がポイントです。それらの症状が気になる場合は、好発年齢を考慮のうえ鼻や耳の病気が原因であることも疑い、耳鼻科へ連れていくようにしましょう。
熱も出ず耳も痛くならない、滲出性中耳炎。たとえつらい症状がなくても、長い間難聴を患っていると、家庭・学校生活や発育・発達に影響が及ぶ場合もある。本人が自覚しにくいからこそ、周りの大人がちょっとしたサインに気づいてあげることが大切だ。
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記事監修: 松根彰志(まつね・しょうじ)
医学博士
1984年 鹿児島大学医学部医学科卒業
1988年 鹿児島大学大学院医学研究科修了
1988年~1990年 ピッツバーグ大学(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)留学
NPO 花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会 副理事長、事務局長
同団体は、花粉症・アレルギー性鼻炎や蓄膿症・副鼻腔炎に正しく対処するための情報発信・活動を推進しています。
日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授
日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科部長、病院研究委員会委員長
日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 各学会の代議員
神奈川気道炎症病態研究会 代表幹事 など