「通信の中立性」に関するルール策定を
「流れるデータに最適化を加える」「流れるデータの種類によって課金するか否かを変える」ということは、2つの意味で危険性をはらんでいる。
一つ目は「通信の秘密」の面。ネットワークは郵便網と同じだ。どこへ向けたものかはわかっても、その中身を見てはいけない。法律がそう定めている。だが、「流れるデータに最適化を加える」「流れるデータの種類によって課金するか否かを変える」には、流れているデータがどういう種類のものかを判別する必要がある。
こうした時に使われるのが「Deep Packet Inspection (DPI)」と呼ばれる手法だ。DPIそのものは、セキュリティ対策や帯域のコントロールなど、すでに広く使われているものではある。しかし、サービスを高度化するためにDPIを活用することが常態化すると、通信の中身を一部傍受されることにもつながる。例えば、それを広告に活用したらどうなるだろう? 基本的には、利用者から許諾を得た上で利用する形でカバーしうるものとは思うが、暴走は戒めなければならない。
二つ目は「公正競争の維持」だ。例えば、携帯電話事業者が自社でのメッセージングサービスや動画配信で、パケット通信料をとらない、と決めたらどうなるだろう? そして、その事業者がすでにその分野で大きなシェアを持っているとしたら? 今から出てくる新しいサービスは、回線と通信サービスの両方で戦う必要が出てくる。すでに強い事業者はどんどん強くなる。
LINE MOBILEにも、公正競争維持の面では、少々微妙と思える部分がある。もやは日本において、LINEは最大のメッセージング・プラットフォームである。その影響力を使うと、通信回線事業者としてもかなり優位に立てる。今回、LINEはFacebookやTwitterの使い放題も打ち出したが、うがった見方をすれば、そうしないと公正競争上で問題が出そうだから、ともいえる。
単に使う側に立てば、LINE MOBILEの試みは歓迎すべきものだ。少なくとも、実効通信速度が明確でない状態で月額数百円の通信料金だけを競い合ったり、携帯電話購入時の不透明なキャッシュバックで戦ったりするより、よほど本質的だし、消費者のためになる。だが、上記のような課題もあり、そこで「どうするべきか」のルールを決める必要ある。
こうした問題を「通信の中立性」という。海外では議論が続けられてきたが、日本ではあまり盛り上がってこなかった。これを機会に、通信の中立性に関する明確なルールを定めて、各社が競争できる状況になることを望みたい。
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