サービスとニーズの“落とし所”を探る

ジャケットでカスタマイズしたい部分はサイズ感だけにとどまらない。スタイル(例えばダブルにするなど)、ラペル(襟)の形や幅、ボタン、裏地など、こだわりだしたら切りがないアイテムだ。

前出の立石氏は「ジャケットのカスタムは、やろうと思えばいくらでもできる」と認めつつも、自社のセミオーダージャケットについては「価格とクオリティのバランスはいいと思う」と自信を示した。カスタマイズの範囲については、ユニクロ側が提供できるサービスの範囲と顧客のニーズを分析し、丁度よい落とし所に商品を投入できたという実感があるようだ。ジャケットの隅々にまでカスタマイズを施したい顧客は他店へ行く。顧客からの要望が多ければ、ユニクロもカスタマイズ性の拡充について検討するという。

ジャケットのカジュアルな着こなしも提示するユニクロだが、ビジネス用途の売れ行きが好調な模様。「色々な着用シーンを想定して出した商品だが、結果的にビジネスに合った」(R&D部の佐々木氏)

サイズ調整が可能な約1万5,000円のジャケット。確かに魅力的な商品だが、この金額でジャケットを購入するのであれば、セール期にデパートを回ってみるのも面白いような気がする。同じような価格帯の競合は激しそうだが、ユニクロの目指す企業としての未来像を探っていくと、同社がセミオーダー事業に乗り出したのも当然だったような気がしてくる。

「LifeWear」の在り方を体現するサービス

セミオーダー感覚のジャケットに商機があると判断して同事業を進めてきたユニクロだが、顧客一人一人のサイズにこだわったサービスが具体化したのは、同社が打ち出している「LifeWear」というコンセプトによる部分が大きいようだ。

ユニクロ代表取締役会長兼社長の柳井正氏が語るところによれば、LifeWearとは「高品質でファッション性があるベーシックウエアであり、着心地が本当に良い、誰もが手の届く価格の日常着」のこと(ユニクロHPより)。前出の立石氏によると、「(LifeWearというコンセプトのもと)社内では究極の日常着を顧客に提供したいという大きな流れができている。ここを突き詰めていったら、『個』に寄り添うという考え方に落とし込めた」という。仕事も日常の一部と捉えれば、ジャケットはビジネスマンの日常着ということになる。

2度にわたる値上げにより、会社としての方向性に疑問の声も上がっていたユニクロだが、セミオーダージャケット事業からは顧客との関係性を深めようとする同社の姿勢が見て取れる。大規模な商売を展開する一方、顧客一人一人のサイズを把握し、細やかな商品提案を行うというビジネスモデル。これこそが、同社の追求する“究極の日常着メーカー”としての未来像なのかもしれない。