―― 直近では、新規事業の立ち上げにも関与してきましたね。

樫尾氏「新規事業として取り組んできたもののなかに、先ごろ発表したSmart Outdoor Watchがあります。これは、コンセプトづくりの段階から取り組んできたものですし、私が社長に就任してから最初に発表した製品ですから、個人的にも強い思い入れがあります。

カシオは時計事業を行う一方で、カシオペアなとのモバイルデバイスや携帯電話事業の経験、そして、腕時計型デジタルカメラ、MP3ウオッチ、計算機能付き時計なども出してきた経緯があります。そうしたことを考えると、モバイルデバイスの延長線上にあるスマートウオッチは、カシオが絶対にやらなくてはならない製品です。売れるか、売れないかということではなく、まずはカシオらしいスマートウオッチを作るということが、避けては通れなかったわけです。

3年前に新規事業開発本部を作り、私が責任者となってコンセプトづくりを始めたのですが、時計事業部だけではなく、携帯電話をはじめとする情報機器をやってきた部門を連携させて、組織を編成しました。ただ、初めての製品ということもあり、スマートウオッチを試作的に作ってみようという意識がどうしても芽生えがちです。

そこでとにかく、使えるものにするということにこだわりました。社員には『一番大切なのは、ユーザーに使ってもらうこと。使うことを意識して、作ってくれ』といい続けました。繰り返しになりますが、使ってもらうことが、カシオらしさを実現することにつながるからです。そして、カシオにしかできないスマートウオッチを出してほしいということも徹底しました。

ただ、いま実現できるスマートウオッチの性能、機能では、普段使いは難しいといえます。時計を毎日充電しながら、普段使いするというのは現実的ではありませんし、普段はスマホを持ち歩いているなかで、スマホの使い勝手を置き換える提案も難しい。スマホ以上におもしろい提案ができる段階にはないのです。普段使いという用途だけに限定すると、極論すれば、スマートウオッチはいらないということになる。

いま唯一使われる可能性があるのが、スマホのアプリが使えないシーン、使いにくいシーンに、スマートウオッチが代替するという用途。それが想定されるのがアウトドアです。漠然にアウトドアといってもわかりにくいので、Smart Outdoor Watchでは、釣り、トレッキング、サイクリングにフォーカスして、スマホがポケットに入っていても、リュックに入っていても、Smart Outdoor Watchでアプリが使えて、アウトドアで人をサポートするということを最大の売りにしました。

普段使いの時計は、最低でも1年、2年といった電池寿命が求められますが、アウトドア用途では、使うときだけの電池寿命があれば、用途を果たすことができます。これも、使ってもらうという観点からのカシオならではの発想といえます」

Smart Outdoor Watch(WSD-F10)

―― Smart Outdoor Watchの完成度は、どう自己評価しますか。

樫尾氏「いまの時代にできることの製品水準をとらえ、そして、潜在的なポテンシャルを考えれば、いい製品に仕上がったと思っています。合格点は行っていますね。80点ぐらいでしょうか。大きさという面で、女性に訴求できないところが減点の対象ですね(笑)。

これから発展を遂げる製品ですから、その点への期待はかなり大きいといえます。いまはAndroid Wearとしての展開ですが、この延長線上となるアウトドアでの利用を想定した進化のほか、普段使いとしてどう進化させていくのかといったことも考えていく必要があります。

また、ビジネス用途として、ハンディターミナルを進化させ、運送会社のドライバーがスマートウオッチを身につけて作業したり、倉庫での在庫管理のチェックに利用するといったことも考えられます。究極のリストデバイスとしてなにができるのか。このデバイスは、新たなユーザーと、新たな用途を、いかに見つけられるかどうかが重要であり、私自身、それを楽しみにしています」