毎秒60コマの場合、1コマに与えられる時間は約16.6ミリ秒。毎秒90コマでは約11.1ミリ秒にまで短くなる。しかもVRでは、立体視のために右目と左目両方の処理が必要だ。この間でうまく処理負荷をコントロールするためには、いままで以上の配慮が必要になる。
ValveのソフトウェアエンジニアAlex Vlachos氏は、「負荷分散のためにも、VR対応ゲームエンジンは2つ以上のGPUを並列に扱えることが望ましく、表示負荷に合わせて自動的に描画セッティングを変える機能を搭載したり、視野の中央以外の描画量を半分以下に減らすなどの工夫が必要」と説明する。PCにおいては、マルチGPU搭載の高性能なゲーミングPCであることが望ましいが、そこまでは至らないスペックのPCも想定する必要があるためだ。
しかもここから、VR用のヘッドマウントディスプレイ (HMD) に映像が表示されるまでの遅延と、モーションセンサーなどでHMDの位置を把握して補正する時間も加味される。現状のハイエンドVR機器はすべて有線で接続されているが、1ミリ秒、2ミリ秒を稼いで酔いを抑えようと努力する世界では、5ミリ秒単位での遅延が想定される無線通信系の活用は難しい。
PS VRはここで有利である。PCと違って環境が統一されているため、「PS4とPS VRのセット」に絞り込んでチューニングを追い込める。実際、PS VRのVR体験は、PCのそれに勝るとも劣らない快適なものだ。
今年の秋には、PS4発売から3年が経過する。技術的に最新で数倍の価格であるハイエンドゲーミングPCに比べれば、純粋な演算能力ではかなりの差があり、不利は否めない。実際、VRにおけるCGの表示能力では、PC向けのものに比べ、差がある。
だがそれでもPS VRが快適であるのは、数ミリ秒を争って処理するVRにおいて、最適化設計が演算能力と同等以上の価値を持っている、ということなのだろう。そうしたノウハウも、VRが世に広まるにつれ、新しい価値として認識されていくのではないだろうか。
求められる「VRならではの制作ノウハウ」
一方で、VR酔いの原因には、技術的なものとコンテンツデザイン的なものの二つがある。ここまで解説してきたのは技術的なものだが、デザイン面での要件はより多い。
例えば、急に動く方向を変えると人は一気に酔う。前や横への平行移動はいいが、後ろへ下がるのは苦手。画面を回転させる、いわゆるロールの動きも、酔いを誘発しやすい。主観視点に近く、世界全体を見通すのが難しいため、目的地の方向などを見失いやすくなる。加速度を感じさせる場合にも、急激に速度を変えると酔うため、ゆっくり変えなくてはいけない。逆に加速度が変化しないなら、高速移動していても酔いにはつながらない。
そうした知見は、VRコンテンツを作ってみないと見えてこない。ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏は「やってみないとわからない。どんなにゲームのベテランでも、同じところで引っかかる。自分が真剣に取り組み始めるとやっとわかってくる」と説明する。
だからこそ、GDCでも情報交換は活発に行われていたし、日本国内でも、VR関係者の横のつながりは広い。そうした試行錯誤の結果は、PCにおいては4月あたりから、より一般向けの製品としては10月発売のPSVRから見えてきそうだ
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