だが、歩き方や見当識障害よりも正確な判断ができるのは、CTやMRIなどでの画像検査だ。iNPHでは「脳脊髄液が流れる脳室が大きくなる」など、一般人には見られないはっきりとした特徴がいくつか出ると福島医師は解説する。

また、タップテストと呼ばれる手法もiNPHを判別するのに有効だ。腰椎から脳脊髄液を30ccほど抜いた後、「アップ&ゴー」と呼ばれる動作を行ってもらう。

これは、座らせた患者に起立してもらう⇒数メートル歩いてもらってからターンしてもらう⇒開始位置に再び座ってもらう、という行動をしてもらうもの。髄液を抜いた前と後でタイムが改善されていれば、iNPHの可能性が高い。実際の医療現場では、臨床症状やタップテスト、そして画像所見などのさまざまな要素を複合的に見たうえで、iNPHか否かを判断している。

高齢出産に先天性水頭症の危険性

他方で、実は先天的に水頭症で生まれる小児も、高齢者同様に問題視されている。頭蓋骨がまだ癒合していないため脳圧が高くなるにつれて頭が大きくなり、大泉門(だいせんもん: 頭頂部とおでこの中間あたり)が張って膨れているように見える点が特徴だ。このような先天性の症状は、高齢出産や妊婦の抗てんかん薬などの使用によって起きやすくなるとのこと。

高齢者や小児問わず、iNPHと判明した場合は「シャント手術」と呼ばれる手術を行うのが一般的。iNPHは異常にたまった脳脊髄液が原因なので、その液をチューブを用いて体内の別の場所(主に腹腔内)へと移動させる手術だ。iNPHの症状の進行具合には個人差があるが、早期であるほど治療の効果は高まる。

「歩行障害は、データによっては7割とか8割ぐらい改善されるというものもあります。尿失禁も50%ほどはよくなります。iNPHは治療可能なため、疾病初期の段階できっちりとiNPHか認知症かを判別する必要があります」。

家族や親戚に「歩き方がおかしい」とか「物忘れがある」などの症状が出始めた場合、早計に認知症と決めつけてはいけない。有事の際には、しかるべき医療機関できちんと検査をしてもらうようにしよう。

記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。