閑散期の解消が通年雇用を生み出す

豊岡市では名物の蟹が旬を迎える冬季と、海水浴が最盛期となる夏季に観光客が増える。2014年の数字を見ると、3月は8万人近くの宿泊者数があるのに対し、閑散期の6月は4万人弱と宿泊者が半減。繁忙期の人手不足は派遣労働で対応するのが一般的だった。

豊岡市の津居山港で水揚げされたズワイガニは「津居山かに」としてブランド化している(写真左)。竹野浜海水浴場はキメの細かい白砂が特徴だ(写真右)

DMOは収益事業者でもあるため、季節によって観光客数に大きなギャップの生まれる観光地の通弊を打破しなければ、閑散期の経営状況は厳しいものとならざるを得ない。豊岡版DMOでは外国人観光客で閑散期の宿泊者数を底上げし、季節による客数の差を埋めたいとしている。閑散期が解消すれば、観光関連の業種で年間を通じた雇用が生まれる可能性が出てくる。

放っておいても客が押し寄せる繁忙期に対し、「閑散期はあきらめムードだった」(ウィラーの村瀨氏)というのがDMOで対処すべき問題点だ。閑散期の集客力を高める具体策は聞けなかったものの、「(ブランディングや商品開発などの)戦略を立てて閑散期に取り組めるのがDMOの良さだ」と村瀨氏は強調した。

同一の観光地で宿泊施設や土産物店を営む業者同士は、ともすれば互いを商売敵と認識する傾向にあるが、閑散期の集客は、地域全体が一丸となって解消すべき課題といえる。「DMOは共同戦線を形成するための戦略チーム」(村瀨氏)になりうるという。

観光地経営に取り組む日本の先行事例に

インバウンドブームが続く日本だが、地方には外国人観光客の獲得に手を打てていない観光地もまだまだ存在しそうだ。ロンリープラネットに載るという外部要因はあったにしても、豊岡市がインバウンド需要の取り込みに成功しつつあるのは、海外に向けて積極的に情報発信してきた同市の姿勢によるところも大きいだろう。

豊岡版DMOが上手くいくかどうかについては未知数な部分も多いが、観光地がインバウンドの恩恵を十分に受けるためには、新たな取り組みを含め、自ら仕掛けていく姿勢が重要になってくる。人口減少に悩む地方の観光地において、外客獲得による魅力的な雇用創出は可能か。先行事例となりうる豊岡版DMOに今後も注目したい。