iPhoneとの組み合わせでDSD 11.2MHzを堪能

肝心の「Mojo」の音だが、そこかしこにChordの音作りを感じさせ、聴く者を飽きさせない。全域にわたる解像感の高さのみならず、左右チャンネルの分離感、低域のパワーと張り、瑞々しい音の輪郭は、ヒット作「Hugo」を彷彿とさせるものだ。レンジ感はHugoほど広大ではないにせよ、このサイズでこのクオリティを実現したことには正直驚かされる。それがWTAフィルタ(アップサプリング後にΔΣ変調を行いアナログ電流に変換するCHORDの独自技術)による効果か、ディスクリート構成のパルスアレイDACによる効果かは断定できないが、実際に音を聴けば、Mojoを評する「凝縮感」というキーワードに納得するはずだ。

Mac(OS X Yomisite)で「Audio MIDI設定」を起動したところ。PCMで最大768kHz/32bitに対応していることがわかる

Raspberry Pi 2(Volumio 1.55)に接続したところ。カーネルとALSAライブラリの事情により、DSD 5.6MHz(DoP)までは再生を確認できた

Mojoの特徴を端的に表すのがピアノの音だ。試聴に利用した「オーディオテクニカ ATH-A2000Z」は、俊敏なレスポンスによる緻密な描写を得意とする密閉型ヘッドホンだが、強いアタックはもちろん弱めのタッチで残る余韻と空気感まで再現する。倍音成分も豊かに消え入る間際の音までしっかり描けば、感動もいや増しに深まろうというものだ。

圧巻はDSD再生。音源が豊富にあるとは言えない状況だが、Mojoで再生するDSD 11.2MHzは艶といい滑らかさといい「DSDらしさ」の期待にじゅうぶん応えてくれる。そもそものS/Nの高さもあるが、パルスアレイDACのメリットとされるノイズ変動の少なさが奏功しているのだろう。

カメラコネクションキット経由でiPhone 6sと接続し、DSD 11.2MHzを再生したところ。PCM変換ではなく、ネイティブ再生されていることがわかる

気になった点といえば、バッテリーだろうか。MojoにはUSBオーディオ用と充電用2基のMicro-Bポートが用意されているが、USB DAC使用時にバスパワー給電されない。スマートフォンのバッテリーを消費しないようにという配慮だろうが、バッテリー残量を気にしつつ音楽を聴かなければならない。

ときどき端子を差し替えて充電するか(当然音楽は聴けない)、Mojo用の電源を別に用意するかの二択になるわけで、これはなかなか悩ましい。バスパワー給電に切り替えるスイッチがあればうれしいところだ。

急速充電に対応していないことも気になる。ほぼ同じ容量のバッテリーを積むスマートフォンが90分程度でフル充電できるところが、5時間ほど要してしまうのだ(5V/1Aアダプター使用時)。バスパワー給電できれば、さほどデメリットにならないだろうが、うっかり充電不足の状態で外出すると悔しい思いをするはずだ。

バッテリー残量は、給電専用Micro-Bポート下にあるLEDの色変化で確認できる

もうひとつ言っておきたい。Mojoに始まった話ではないが、Chordの製品はデザインとネーミングが個性的すぎる。今回の「ビー玉」も、正直なところ微妙な気分を拭えない。音質と機能に関しては申し分なく、価格に見合ったパフォーマンスを提供してくれるが、その独特のセンスを魅力に思えるかどうかは人による。英国のメーカーであるだけに、モンティ・パイソン的なアイロニーに対する理解が求められるようだ。