「働く人の幸せを考えない企業に、持続的な成長はあり得ない」。社員とお客様をともに幸せにする経営改革、ソーシャルシフトを提唱しているループス・コミュニケーションズの斉藤さんに、読者のお悩みにアドバイスしていただきました。あなたが前向きな明日を踏み出せる一助となりますように。

<取材対象者プロフィール>
斉藤徹
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。1985年、日本IBM株式会社入社。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。20年を超える起業家としての経験とビジネスに関する知見に基づき、ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書に『BEソーシャル社員と顧客に愛される5つのシフト』『ソーシャルシフト これからの企業にとって一番大切なこと』(日本経済新聞出版社)など多数。

寄せられたお悩み

上司が気まぐれでほとほと困っています。ちょっとしたことで、すぐに感情的になるので、怖くてものが言えません。それに同じことをしても、怒られたり怒られなかったりするので、どう行動すればいいのかすらわかりません。こんな気分屋の上司に、どう対応したらいいのでしょうか。(32歳女性)

「空気を読む技術を磨くチャンス」だと考えてみたらいかがでしょう

あなたが意見を仰がなければいけないはずの上司が気分屋というのは困ったことですね。同じことをしても、怒られたり怒られなかったりすれば、どう行動すればよいかわからず、混乱してしまいますよね。きっと上司は上司で、思い通りにいかないことがいろいろあり、悩んでいるのだと思います。幹部からの命令か、予算の未達か、自分自身の出世のためか。いずれにしても無理な目標をいかに達成しようか、頭の中には数字や不安が渦巻いているのでしょう。

実は、この質問を拝見したときに、私自身も心が痛みました。なぜなら、かつての私自身が「気分屋の上司」だったからです。私は29歳のときに起業し、1年間のうちに社員数40人、月商1億円を超えるまでに成長させ、有頂天になっていました。しかし、その後たった数年で、資金ショートが続き、裁判沙汰になったり、自宅を競売にかけられたり……と、地を這うようなどん底状態も経験してきました。

社員は毎日精一杯仕事をしてくれているのに、私の頭の中は資金繰りでいっぱいです。顔をあわせれば「あの案件はどうなった?」「なんで予算を達成できないんだ!」と叱ってばかり。ちょっと失敗しただけで「なんでこんなこともできないんだ!」と社員を責める。資金繰りのことばかり考えているので、以前の報告はもうすっかり忘れてしまってます。会議では「どうせ叱られるから」と誰も意見を言わなくなるし、社員の気持ちは離れて、結果として業績もマイナスになってゆきます。

そんな実体験を経て、今の私が言えるのは、その上司が気分屋でなくなるためにはまだ時間が必要で、いくらあなたが変えて欲しいと言ったとしても変わらない可能性が高いということ。むしろ、気分を害してさらに関係が悪化するかもしれません。残念ながら、まだその上司は成長途上で、あなたとともに学習をしているところなのです。

そこで、外部の環境を変えるより、あなたの考え方を変えてみたらいかがでしょう? 気分屋とは、その名の通りに気分を常にあからさまに表現しているので、逆に言うととてもわかりやすい性格だということです。その人が怒っているかそうでないのか、すこし会話すればすぐにわかりますよね。

であれば、例えば「空気を読んで頼りにされる人になる」ためのトレーニングないしゲームだと思って、上司との会話をとらえてみたらいかがでしょうか。怒っているときは「触らぬ神に祟りなし」。機嫌のいいときを見計らって、報告などをすればよいのです。ただしあなたの信頼に関わるのでウソだけはつかぬように。運悪く地雷を踏んでしまったときは、まっとうな意見だけを受け取って、そのほかはグチだと思って聞き流しましょう。あなた以上に上司は何かに悩んでいるのでしょう。

上司に攻撃的に言われると本当につらい気持ちになりますね。特に自己否定の言葉は凶器にように感じてしまいます。でも、その言葉をあなたがどう受け取るか、それを決められるのは究極的にはあなただけです。上司もあなたの心をコントロールすることはできません。外部の環境に反応的にならず、自分自身の内なる心と対話しながら、間をおいて対応できるようになったら、あなたは人生における大切な悟りを得たことになります。

一方、上司の立場から見ると、自分が叱りつけても、話の要点だけ汲み取って、冷静に対処してくれる部下は大変に貴重な存在です。僕の経験から言っても、そんな部下は非常に少なかったため、いつしか責任あるポジションに登用していました。あなたの上司も我に返ったとき、「あの部下は頼りになる」ときっと気づくはずです。

さらにワンランク上を目指すなら、上司の機嫌のいいときにランチに誘ってみてもよいかもしれません。イライラしている上司は、実はかなり孤独を感じています。そんな時に声をかけられるとすごくうれしいものです。そして上司の話を聞き、悩みを共有できれば、相互の信頼関係を築くための第一歩となるでしょう。

つらい日々だと思いますが、私も応援しています。明日があなたにとって優しい一日になりますように!