GPUコンピューティングの先端を走るNVIDIA

実際、GPUで処理した場合とCPUで処理した場合では、最大で10倍近くもの速度差が現れる。あたらしいアルゴリズムを組み上げ、データを処理させた結果を確認し、新たな推論を打ち立てる人工知能開発の現場において、数週間かかっていたデータ処理が数日で終わることのアドバンテージは計り知れない。

画像分類でよく使われるフレームワークCaffeでNVIDIAのGPU「TESLA M40」を利用した場合。CPUよりも高速の処理が可能

NVIDIAは同社のGPUコアと大量のメモリを搭載した「Tesla」ブランドの演算カードを開発しており、これをセットすることでPCやワークステーション、サーバーがGPUコンピューティングに対応したアプリを超高速で実行できるようになる。拡張スロットに取り付けるタイプのカードなので、1台の本体に対して数枚のカードをインストールすれば、性能向上に対する空間効率も非常に高くできる。

ディープラーニングにおいては、CaffeやChainer、Theanoといったディープラーニング用ソフトがNVIDIA Teslaに対応済みであり、実際にGoogleやIBMといった巨大企業のサーバーファームから、大学の研究室レベルまで、多彩なスケールで実際にTeslaを使ったディープラーニングが行なわれている。まさにNVIDIA Teslaの処理能力が人工知能の爆発的な進化を支えているかたちだ。

NVIDIAがこれから目指すもの

GPUコンピューティングそのものは、NVIDIAのほかに米インテル社や米AMD社など、NVIDIAとGPUで競合するメーカーも開発を進めている。また、GPUの種類を問わず利用できる開発環境として「OpenCL」「DirectCompute」といった共通規格もあるのだが、インテルはCPU内蔵GPUに注力しており、単体で強力なGPUを開発していない。

AMDは単独のGPU「RADEON」シリーズを販売しているが、NVIDIAの「Tesla」に相当するGPUコンピューティング向けの演算カードは販売していない。特にTeslaのような演算カードの存在は、実際の研究機関などで採用されるにあたって大きなアドバンテージになる。開発環境の実績や充実度を見ると、実質NVIDIAの一強という状況だ。

また、NVIDIAはTeslaの高い処理能力を活用する場として、自動車業界をターゲットに挙げている。現代の自動車は随所にセンサーを設けており、それらから走行中に毎秒入力されるデータは非常に莫大な量になる。

自動運転には車に搭載されたセンサーを利用して周囲の状況を確認しながら運転の制御をすることが求められる。画像からは画像認識により、歩行者や駐車車両、標識などを認識していることがわかる

さらに、これが自動運転車となると、カメラの映像や音波など、センサーの数も入力されるデータの量も格段に跳ね上がる。こうした大量のデータを瞬時に処理し、事故を起こさずに走行するよう、自動運転車には人工知能的なアプローチが行なわれているのだが、ここにTeslaの強力な処理能力を生かそうというわけだ。

このように、人工知能や自動運転といった次世代の重要な技術においては、GPUコンピューティングが非常に大きな役割を持つ。そして、GPUコンピューティングの進化を最前列で支えるNVIDIAの存在は、これからのIT分野や産業界において、その進化の速度を左右する、非常に重要なポジションを得ていくことは間違いない。

【関連記事】
人工知能は何によって進化するか?
人工知能はビジネスシーンの何を省くか
賢さ増す人工知能、これからのビジネスパーソンに求められるものとは?