線路の長さで日本の倍以上のネットワークを有する鉄道大国のインドだが、最高時速が300kmを超えるような高速鉄道を整備するのは今回が初めて。当然ながら、高速鉄道事業の根拠となる法律や制度などは一から作る必要がある。
高速鉄道事業の根拠法を策定するのはインド側だが、新幹線をモデルに最初の路線を建設する以上、制度づくりで日本を参考にするのは理にかなった判断だ。日本としても、インドの新幹線がスムーズかつ安全に動かなければ、世界の高速鉄道市場で信用を失いかねない状況であることを考えると、制度づくりからインドと歩みを共にする意義は大きいといえる。
日本の安全基準がインド高速鉄道市場を左右?
新幹線と同等の安全基準が適用されれば、インドを舞台に過熱する高速鉄道の受注合戦にも影響がでるものと考えられる。今後の新規路線建設プロジェクトにおいて、乗客の死亡事故が開業以来1件も起きていない新幹線と同レベルの安全性が求められるとすれば、鉄道システムの提案が可能な国は限られてくるものとみられるからだ。JICAの制度設計支援が徹底したものであればあるほど、インドの高速鉄道市場に海外勢が参入する際の技術的なハードルは上がる。
日本の助言を受けて策定する新幹線整備に関する新制度を、インドが全国に適用するかは現時点で未知数だ。ムンバイ~アーメダバード間を含め計7路線の高速鉄道を計画するインド政府が、路線によって違う規格のシステムを採用し、それに合わせた制度を個別に策定する可能性もゼロではない。山形新幹線と秋田新幹線を走る「ミニ新幹線」のように、日本でも路線によって違う規格が採用されている例はある。
しかし、7本の高速鉄道を計画するインドが、路線ごとに異なった制度を用意するのは合理的ではないというのが一般的な見方だ。ムンバイ~アーメダバード間のインド版新幹線は、制度を含めてインド高速鉄道市場のデファクトスタンダードになる可能性がある。日本の基準がインドのスタンダードになれば、後続案件に新幹線を売り込む日本勢の優位性は高まる見通しだ。
日本が全面的に協力するインド版新幹線だが、同国で採用が拡がるには、ムンバイ~アーメダバード間の評判が重要になってくる。安全性は当然として、気になるのは鉄道事業として同路線が上手くいくかどうかだ。高速鉄道経営の難しさは、台湾新幹線の現状を見ても明らか。インドに新幹線は時期尚早とする見方も根強く存在する。両都市を結ぶ高速鉄道に需要がなければ、インド初の高速鉄道とはいえ、物好きな富裕層の乗り物になってしまう可能性も否定できない。