幼少期に触れた「ホンモノ」は忘れない。

“伝統産業×乳幼児向け”商品。そもそも矢島さんがこのアイデアにたどり着いたきっかけは、大学に通いながら取材・寄稿していた自身の雑誌連載だった。

もともと矢島さんは、中学で茶華道部に所属したのをきっかけに、茶器や棗(なつめ)、着物など日本の伝統に関心を持っていた。何せTVチャンピオン2の「なでしこ礼儀作法王選手権」で優勝したほどである。そして日本の文化や伝統に強い興味を抱いた結果、大学時代に自ら企画した「日本の伝統産業の若手職人を取材する」連載を持ち込み、夢を実現させた。

「各地で代々受け継がれてきた伝統を知るのは、とても楽しく学びのある経験でした。ただ、いつも気にかかるお話が聞こえてきました」(矢島さん)。

それが「ものが売れない、後継者がいない」といった声だった。伝統産業が今や衰退して、ジリ貧の状況にあるのを目の当たりにしたのである。

どうすれば、この流れを食い止められるのか――。

たどり着いたのが「伝統産業に出会う機会を生み出すことができればよいのでは」という考えだった。

人気商品のこぼしにくい器。内側に返しがついているため、子どもから大人まで、食べ物をすくいやすくなっている。砥部焼(愛媛)、大谷焼(徳島)、山中漆器(石川)、津軽焼(青森)の4種がある

「子どもの頃に触れたホンモノから得た感動は、大人になっても忘れられないもの。けれども、現代は幼少期に自国の伝統に触れられる機会が少ない。それなら、赤ちゃんや子どもたちにこそ伝統に触れてもらう機会をつくれば、大きくなったときにも『漆器の口当たりって心地いいよね』『木のぬくもりが好き』という感覚を持ち続けていただけるのでは、と考えました。私自身、茶道や華道に触れなければ、伝統の魅力に気づくきっかけがありませんでしたからね」。

そして、矢島さんは「伝統産業の技術を生かして赤ちゃん・子ども向けの商品をつくる」というありそうでなかったビジネスモデルで、学生向けのビジネスコンテストにて優勝。これを機に起業にいたり、それまでの取材で出会った職人さんとのつながりも活用して、唯一無二のブランド『0から6歳の伝統ブランドaeru』を立ち上げ、すでに5年目を迎えた。

矢島さんには、大事にしている“かんどころ“があるという。

それは商品を説明するときに、伝統産業であることをさもありがたがって伝えないことだ。

昨年京都にできた2つめの直営店「aeru gojo」

どこそこの伝統産業でこんな工程を踏んでいます、なんていうことを最初に伝えても、ほとんどの客にとっては意味がない。今は伝統産業がブランドとして伝わっていないのだから、心に響かない。それよりも「この機能とデザインが子どもたちにとってどんな意味があるか」をしっかりと伝えている。

「伝統産業だからという理由や、素敵なデザインだから人気が出るという時代ではなくなってきていると感じています。どんなものでも、しっかりと魅力を伝える努力をしていくことがなければ」(矢島さん)。

社名の「和える」は、先人の智慧と現代を生きる私たちの感性や感覚、それぞれの本質を引き出したうえで、新たな価値を生み出したい、という願いから名づけたものだという。それはとても丁寧だが、手間がかかることだ。

けれども未来につながる、まっとうなものづくりでもある。

(写真提供:株式会社和える)

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