レーザー干渉計
重力波を直接捉えようという試みは、ウェーバーが巨大なアルミニウムの円柱を使って行い、そしてどうやら失敗に終わったらしいということは前述した通りである。そしてその後は、レーザー干渉計という別の観測装置を使うことが主流となっている。
これはマサチューセッツ工科大学のワイスらによって提案されたもので、もともとは米国の物理学者アルバート・マイケルソンが、光の媒体と考えられた「エーテル」の存在を証明するために開発したものだった。もっとも、エーテルそのものは現在では否定されている。
レーザー干渉計というのは、レーザー光線を直交するふたつの方向に向けて発射し、遠くに置いた鏡で反射させ、戻ってきた両方の光の到達時間を比較することで、重力波の存在を掴もうというものである。二方向の間の距離が同じであれば、到達時間に変化は無い。しかし、もし重力波によって空間がゆがむと光が進む距離が伸縮するため、それぞれのレーザーの到達時間に狂いが生じることになる。その変化の度合いなどが検出できれば、重力波を捉えたということになる。
原理そのものは簡単のようだが、実際に重力波を検出できるほど高い精度をもった装置をつくって動かすには、高い技術力が必要となる。たとえば温度の変化によっても検出が難しくなるし、地上に検出器を置く場合、地震が発生していなくても地面は常に細かく揺れているため、そうした動きに影響されない工夫が必要になる。また、レーザー光が走る距離は長ければ長いほど良いものの、地球は丸いため限度があることから、限られた距離でいかに必要な性能を出せるかも課題となる。
長年の研究開発の末、ようやく十分な精度が出せる装置の技術が出来上がり、1992年から米国で「LIGO」(ライゴ)という計画がスタートした。LIGOとはLaser Interferometer Gravitational-Wave Observatoryの略で、日本語にすると「レーザー干渉計重力波望遠鏡」という意味になる。LIGOはワシントン州のハンフォードと、ルイジアナ中のリヴィングストンの2か所にレーザー干渉計を置き、それぞれ1辺4kmのL字型のトンネルをもち、その中をレーザー光が進む。2か所に建設するのは、同時に観測することで、ミスやエラーによる誤検出を防ぎ、確実に観測をするためである。
また研究者らは、米国以外にもレーザー干渉計を建設し、共同で観測する体制をとることを決めた。これは共同観測で誤検出を防ぐこと、そしてより正確で意味のあるデータを取ることが狙いだ。たとえばLIGOの2基の干渉計で重力波を検出できたとしても、それだけではどこから飛んできたものなのかがわからない。そこでほかの地域にある3基目、4基目のレーザー干渉計も使うことで、三角測量の要領で重力波の発生源を知ることができる。また同時に、LIGOが検出したという結果が間違いではないことを裏付けることにもなる。
フランスとイタリア、オランダは、イタリアのピサに「VIRGO」(ヴィルゴ)を建設。英国とドイツは、ドイツのハノーファーに「GEO 600」(ジー・イー・オー)を建設した。また日本でも、1991年ごろから宇宙科学研究所(現JAXA/ISAS)や東京大学、国立天文台に実験的なレーザー干渉計が作られ、やがてより大型の「TAMA300」という干渉計が建設された。