人との親和性を追求するホンダ

人がいる空間との親和性を徹底的に追求し、ホンダが世に問うPMが「ユニカブ」だ。ASIMOを手掛けるホンダは、ロボットのバランス制御技術を応用してPMを開発している。ユニカブは座って乗るのが特徴で、当然ながら乗車時の目線は椅子に座っているのと同じくらい低い。機体は肩幅に収まる寸法で、少しくらい込み合う場所でユニカブに乗っても、歩行者の足を踏む危険性はほとんどなさそうにみえる。歩行者にぶつかりそうになった場合は、足を着くことですぐに走行を止めることが可能だ。ハンドルを握る必要がないため、例えばユニカブに乗ったまま写真を撮るといったような場面も想像しやすい。

カブ(写真奥)の親しみやすさにあやかったネーミングのユニカブ。ペンギンに例えられるポップなデザインも特徴だ

ユニカブは前輪(主輪)にホンダ独自技術の全方位駆動車輪機構(Honda Omni Traction System)を搭載している。横方向の小さなタイヤを数珠繋ぎにし、縦方向の大きなタイヤを形づくるような技術で、この前輪と旋回用の後輪のレイアウトにより、ユニカブは前後、横、斜めのあらゆる方向に移動できる。

■ユニカブの仕様

  • 高さ:74.5cm
  • 幅:34.5cm
  • 最高速度:時速6km
  • 航続距離:6km

実際に乗ってみると、上体を傾けるか傾けないかの時点で思い通りの方向に動き出すユニカブの動作にまずは驚いた。直感的に走行できるため、狭い所も意のままに通り抜けられた。いつでも足を着いて止まることができるユニカブの安心感も特筆すべきで、乗車時に怖さは一切感じなかった。

屋外を含むさまざまな利用シーンを想定

ユニカブの原型となったのは、1989年のホンダ社内イベント(アイデアコンテスト)に登場したPM。このアイデアをきっかけにホンダは開発を進め、2011年にはユニカブのプロトタイプを公開した。2015年1月現在、ユニカブのステータスはテストマーケティング段階に入っている。ホンダではユニカブの利用シーンや需要を見極める一方で、さまざまな事業者から意見を募り、改善点の洗い出しや新機能の検討も同時に進めている。ユニカブの導入先としては、空港や大型ショッピングモールなどを想定。屋外での使用にも対応する方針だが、法規制の関係上、現時点ではユニカブも日本の公道を走行することができない。

ホンダ 四輪事業本部 事業企画統括部 スマートコミュニティ企画室 ビジネス開発ブロックの福里氏

ユニカブの市場投入の時期は決まっていないが、ホンダでユニカブに取り組む福里有陽氏は、2020年の東京オリンピックまでには日本製PMを世界に向けて発信したいとの考えを示した。販売先としては一般向けも含めて検討していく。ホンダがユニカブで狙うのは、自動車や二輪車といった既存の乗り物とは違う新たな市場の開拓だ。

燃料電池車を中心とするエコシステムの一部として提案

ユニカブを世界に提示する方法の1つとして、ホンダは燃料電池車を中心とするエコシステムにユニカブを組み込む道を探っている。燃料電池車が水素と酸素から作り出した電気をユニカブに給電し、ユニカブを「ラストワンマイルを埋める」(福里氏)乗り物として使うような考え方だ。ホンダは2015年12月、フランスのパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の関連行事でブースを出展。ユニカブを組み込んだエコシステムの展示を行ったところ、反応は上々だったという。ユニカブの海外展開についても、今後は積極的に検討していく方針だ。

ユニカブの使い方に様々なアイデア

ホンダはユニカブとITの連携を見越して、ネット接続で広がるユニカブの様々な利用シーンについて考えを巡らせている。例えば展示会や大型ショッピングモールでは、ユニカブに推奨ルートを送ることで乗り手の移動をサポートする案や、ユニカブの軌跡(動線)をビッグデータとして収集し、展示会の出展者やショッピングモールのテナントに情報を活用してもらうといった使い方を想定。空港での展開としては、あらかじめユニカブに搭乗時間をセットすることで、乗り手が飛行機に遅れないようサポートする仕組みも実装可能とみる。

ユニカブと自動運転の組み合わせにも多くの可能性がありそうだ。任意の場所でユニカブを呼び出すことができれば、最寄駅と自宅の往復などにユニカブを利用するユーザーが出てくるかもしれない。シェアリングで利用する場合も、乗り捨てたユニカブが自動運転でステーションに戻れば便利だ。

日本製PMの将来を左右する規制緩和の行方

ウィングレットもユニカブも完成度は高いが、公道走行解禁の見通しが立たない日本では、市場投入の是非を検討するのも難しいというのがメーカー側の実情だろう。日本企業が市場投入をためらっている間に、海外勢によるPM関連のイノベーションが急速に進んでしまえば、日本のPM市場がガラパゴス化したり、日本製PMが陳腐化してしまったりする危険性も高まる。日本でPMが流行るかどうかは未知数だが、メーカーには海外での先行販売も含めた事業展開を期待したいところだ。