NRE大増 商品開発部長 白木克彦氏

前編では、日本独自の食文化「駅弁」がなぜ国内に普及したのか、その背景について追ってみた。後編では、駅弁が「EKIBEN」として外国人に受け容れられるかどうかについて考えてみたい。公益社団法人「米穀安定供給確保支援機構」が開催した「日本の食文化『EKIBEN』とごはんの魅力」という説明会において、NRE大増(エヌアールイーダイマス)で商品開発部長を務める白木克彦氏が、外国人への駅弁訴求について、その糸口を示してくれた。

ちなみにNRE大増は、JR東日本の飲食事業に携わる日本レストランエンタプライズ(NRE)のグループ会社。東京駅で販売される駅弁の製造や主要百貨店での弁当販売、スーパー・コンビニ用弁当の製造を手がけている。

国ごとの課題克服が必要

NRE大増は、駅弁が海外に受け容れられるかどうか、試験的にシンガポールと台湾で販売を行った。その際の調理責任者が白木氏だ。試験販売とはいえ、日本で製造した駅弁をそのまま海外に持ち込んだわけではない。「日本で製造した弁当を海外に輸出するのは、食品の保存期間を考えると衛生的に難しい。現地で調理できるパートナーが必要になる」と、海外で駅弁を販売することの難しさを強調した。加えて“伊達巻きを卵焼き”にするといった、外国人の嗜好に合うメニューづくりにも苦労したと語る。

結果、シンガポールでの取り組みは、“多彩な食材を彩りよく詰める駅弁”が逆に仇をなし、“食べられない食材が入っている”ことに抵抗感を示す客がみられた。また、本当にサンプル写真のように食材が入っているのか、たずねてくる客もあったという。

一方、台湾での取り組みは、現地ではすでに駅弁文化が根づいており、事前のPRも功を奏したこともあって大盛況で終わったと報告した。台湾現地では2種類の駅弁を販売したが、さらなるメニューの拡充を求められた反面、多彩な食材調達によるコスト増をいかに抑えるかが課題になったと付け加えた。

衛生面・コスト面はさておき、「EKIBEN」が海外に受け容れられるために克服しなくてはならない“文化の違い”が2点、白木氏のレポートから浮き上がってきた。1点目は、米飯が冷たくなってもおいしく味わえるのを理解してもらうこと。台湾では駅弁が根づいていると前述したが、その場で調理した温かい弁当が主流で、冷えてしまった米飯には慣れていない。だが、台湾では味については好評だったというから、食べてさえもらえればこの点は克服できそうだ。

駅弁のパッケージは、実際の中身がみえないものが多い

もう1点が駅弁ならではのパッケージングだ。ご存じのとおり、大半の駅弁が中身のみえないパッケージを採用している。そのため、何が食材に使われているのか外国人に伝わりにくく、シンガポールの例にみられたように“食べられない食材が入っているかもしれない”という理由から敬遠される可能性がある。また、店頭のサンプル写真と本当に同じように食材が詰められているのか、疑ってかかる客が生じることも考えられる。海外では、食品のサンプル写真と実際の中身が乖離している例が少なくない。“中身がみえないから”という理由で、手に取ってさえもらえない可能性があることも否定できない。

コンビニ弁当のような透明パッケージにすれば、この問題をある程度は回避できるだろう。だが、日本人であれば“駅弁のフタを開ける瞬間のワクワク感”すら、旅の楽しみのひとつであると捉えるため、透明パッケージではかえって味気なさすら感じるのではないだろうか。駅弁は、サンプル写真と同じように食材が詰まっていることを、長い時間をかけて外国人に理解してもらうしかないだろう。