買収の下地はかねてより整えられていた
例えばFortuneによれば、2014年4月にIBMがCloud Marketplaceを発表した際、Ustreamは同マーケットプレイス(オンライン商店)唯一の動画配信サービスだったという。Cloud Marketplaceとは、クラウド経由で提供される各種Webアプリケーションをマーケットプレイスで選んで購入し、好きに組み合わせて利用できる仕組みだ。IBM謹製のサービスだけでなく、サードパーティが自身のWebアプリケーションを登録してユーザー企業に購入してもらえる機会を得られる点に特徴があり、Ustreamはその店子の1社の位置付けだといえる。
そして2014年10月には、Bluemix上でUstreamの動画配信機能を実装する仕組みが発表され、IBMクラウド上でUstream動画の取り扱いが容易になった。BluemixとはIBMが2014年にスタートしたクラウド上でのアプリケーション構築サービスで、サポートされている複数の言語のうち、好きなものを用いてアプリケーションの開発が可能になる。もともとは「Cloud Foundry」の名称で「オープンソース」の形式で自由開発が進んでいた仕組みを、IBMが商用のクラウドサービスとして新たに提供を行ったものだ。このBluemixは、同社が以前に買収した「SoftLayer」というデータセンター上で運用されている。
このように、UstreamがIBMに買収される下地は、過去2年以上にわたって少しずつ築かれており、クラウド事業への注力するIBMにとって重要なピースとして位置付けられていたというわけだ。
Ustreamは必要なピース
IBMの発表によれば、今回のUstream買収を機に同社は「IBM Cloud Video Services」部門を設立し、すでに買収済みのClearleap、Cleversafe、Asperaを組み合わせたエンタープライズ向けの動画配信プラットフォーム構築を支援するという。
Cloud Video Services部門のトップにはClearleap買収でIBMに参加したBraxton Jarratt氏が就任する。Clearleapは動画資産管理ソリューションを提供する企業で、Cleversafeは「オブジェクトストレージ」と呼ばれる従来のファイルシステムとは異なる分散管理に適したストレージサービスを提供する企業だ。もう1社のAsperaは数GBから数TBなど、大容量ファイルを効率的に高速で転送するソリューションに強みを持った企業だ。
つまり3社を組み合わせることで、大容量データを必要とする動画配信サービスにおいて資産管理や保存、データセンター間やリモート拠点でのデータ転送などの仕組みが利用できる。ここで唯一存在していなかったピースが「デバイスへのストリーミング配信」の部分であり、Ustreamの買収をもって、動画配信サービス構築に必要な要素が揃ったことになる。