聞き手・鈴木智彦

土方 ようやく大阪の指定暴力団・東組の傘下組織である二代目清勇会の会長が許可してくれて、撮影が始まったんですけど、相手との距離感というか、ようはどこまで近づいていいか分からない。普通、取材が始まって最初の2カ月くらいは、相手の懐に入るため、こちらから土産を持って行ったり、食事に誘ったりするのがセオリーです。でもそれはできない。実際、たこ焼きを奢ってもらいそうになったことがあるんです。それを食べていいのか、暴排条例に抵触しないのかさえ判断できません。断ると「なんで食べられんのだ」、「なんで俺たちの思いが受け取れないんだ」ということになりますよね。ヤクザとしては当たり前の話です。この場面も撮影してします。実感したのはすべては警察の判断ひとつという事実です。マスコミでさえ、報道の人間でさえそうなんだから、一般人は悩むまでもなく、ヤクザに関するものの一切に触れないという思考停止になるでしょう。自分たちを題材にして、ヤクザと一般人の関係性を描ける場面だったので、作品に入れたかったんだけど、なにをしているか分かりにくかったので諦めました。

一緒に飯は何度か行きました。これは使ってないシーンなんですけど、居酒屋で会合した場面があるんです。組員の出所祝いです。取材に行くと僕らの飯も用意してあった。それを食べずに帰るのはあまりにひどいと判断したので、とりあえず味も分かんないんですけど食べます。で、先に彼らがいる間にレジに行って、自分たちの分だけ払って帰った。 新年に、親分が組員に対して、お酒を配ったときは、もらったフリをしてわざと忘れて帰った。こうした時、それは差別だ! と言われると返す言葉がない。その通りなんですけど、黙っちゃうしかない。最後には「お前らにはお前らのルールがあるんだろう」という感じで認めてもらったんですけど……。 

東組二代目清勇会の川口和秀会長


100日に及ぶ撮影は、短期間の出張を積み重ねて実行されたという。日常から暴力団の姿を切り取ろうとするなら、愚直に徹するのみである。何度も現場に通い、ひたすら待つしか方法はないのだ。通常のテレビなら、わずか1日のインタビューで終わるだろう。活字媒体にしても、ここまでの時間を懸けて対象に肉薄する例はほとんどない。