今年も残りわずかとなり、主な秋ドラマは終了。視聴率は最終回が年間トップの22.3%を叩き出した『下町ロケット』(TBS系)の圧勝だったが、SNS上の話題を席巻した『サイレーン』(フジテレビ系)、女性からの圧倒的な支持を得た『コウノドリ』(TBS系)など、ドラマ界全体が盛り上がった印象がある。
ここでは「『下町ロケット』はなぜ大ヒットしたのか?」「視聴者ニーズは各ジャンルの王道作に」「『名脇役』が豊作の秋」という3つのポイントから検証し、全17作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。
■ポイント1:『下町ロケット』はなぜ大ヒットしたのか?
ここまで受け入れられたのは、「男社会のビジネス作」「徹底した勧善懲悪」「ハイテンポな2部制」という『半沢直樹』の成功フォーマットをベースにしつつ、「正義はより熱く、悪にも救いを持たせる」など、キャラ演出を作風に合わせて変えたことが奏功したのではないか。視聴者に「終盤で必ず溜飲をさげられる爽快感」と「仕事へのモチベーション」を与えた功績は大きい。
そして見逃せないのは、後編「ガウディ計画編」での意欲的なメディア展開。池井戸潤の原作は10月から新聞連載されたものであり、11月には小説として発売するなど、視聴者にメディアを横断させる仕掛けで、さらなる興味を誘い高視聴率に直結させた。
その一方で、「あまりドラマを見ない」ライトな視聴者層に訴えかける施策も抜かりなし。アーティスト・吉川晃司、落語家・立川談春、芸人・今田耕司やバカリズム、司会者・恵俊彰、アナウンサー・高島彩、最終回には『酒場放浪記』の吉田類、ナレーションに松平定知を起用するなど、各界からの大胆な起用がことごとく話題を集めていた。賛否あることは織り込み済みであり、“剛腕”とも言えるキャスティング力は見事と言うほかない。
クランクアップを最終回放送の前日朝に迎えるなど、限界ギリギリまで行われた撮影をはじめ、「打てる手は全て打った」というスタッフとキャストの熱は、間違いなく視聴者に伝わっていた。
■ポイント2:視聴者ニーズは各ジャンルの王道作に
ラブコメの『5→9』(フジテレビ系)、サスペンスの『サイレーン』、難病モノの『結婚式の前日に』(TBS系)、大人恋愛の『オトナ女子』(フジテレビ系)、医療ヒューマンの『コウノドリ』、ビジネスの『下町ロケット』など“各ジャンルのど真ん中”と言える作品が多く、その大半が好意的に受け入れられていた。一時期、刑事ドラマが半数近くを占めていたが、ドラマ界が「さまざまなジャンルの作品が見られる」本来の形に戻ったと言える。
中でも目立っていたのは、『釣りバカ日誌』(テレビ東京系)のハマちゃん、『エンジェル・ハート』(日本テレビ系)の冴羽りょうなどの国民的キャラクターが活躍する作品。「視聴者が親近感を抱くコンテンツで勝負しよう」という制作側の意志が見えた。原作の世界観を壊さず丁寧な描くことで、一定の評価を得られたため、条件さえ合えば続編も可能だろう。
ただ、やはりもっとオリジナル作品が見たいところ。その点、結末が分からない『偽装の夫婦』『遺産争族』は、最終回まで視聴者の興味を引きつけていた。
■ポイント3:「名脇役」が豊作の秋
『下町ロケット』では、主演の阿部寛に負けないくらい立川談春、安田顕、吉川晃司らの熱演が好評だったが、秋ドラマは全体的に脇役の好演が光っていた。『無痛』(フジテレビ系)の中村蒼、『偽装の夫婦』(日本テレビ系)のキムラ緑子、『おかしの家』(TBS系)の勝地涼、『釣りバカ日誌』の吹越満、『コウノドリ』の星野源、『エンジェル・ハート』のブラザー・トムなど、主人公を輝かせつつ、自らの存在感もキッチリ。何度となく印象的な見せ場を作っていた。
これまで築き上げたイメージを生かしていたのは、安田と吉川。一方、髪と眉毛を剃る怪演で「好青年」のイメージを覆した中村は、新たな一面を切り拓いた。そして何と言っても出色だったのは、『サイレーン』の菜々緒。「主演を食ってやろう」と宣戦布告しているような強烈な存在感で、作品の魅力を倍増させていた。
この他にも主演を食うほどの演技スキルを持つ脇役俳優は多く、「それをどこまで引き出すのか?」「主演を立てるために抑えてもらうのか?」、演出側の判断が問われる。
全作の全話を見た結果、秋ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『コウノドリ』。突出したヒーローを作らず、「産科の現実を優しい目線から淡々と描く」スタンスは、過剰演出が目立つ昨今のドラマ界では貴重と言える。ここ数年、『クロコーチ』『家族狩り』『Nのために』『ウロボロス』『表参道高校合唱部!』など、「意欲的な挑戦を続けながら視聴率に恵まれなかった」TBSの金曜ドラマに敬意を表して選ばせてもらった。
視聴者が望むものを徹底追求した『下町ロケット』が双璧。脚本や演出は極めて一面的だが、それこそが現在の視聴者ニーズであり、その一点にできる限りの熱を吹き込んでいた。
さらに、深夜の新ドラマ枠にゆるい世界観と深いテーマをぶつけた『おかしの家』、連ドラらしいスリリングな展開とスタイリッシュな映像が見事だった『無痛』も挙げておきたい。
男優では、『下町ロケット』の阿部寛と、『コウノドリ』の綾野剛。「静と動」「ホットとクール」、キャラクターは真逆ながら、役柄に沿った演技を見せてくれた。女優では、『偽装の夫婦』の天海祐希がゲイへの切ない恋心を好演。『5→9』の石原さとみは、現在のラブストーリーにおけるトップ女優としての実力を見せつけた。
【最優秀作品】『コウノドリ』 次点-『下町ロケット』『おかしの家』『無痛』
【最優秀演出】『無痛』 次点-『おかしの家』
【最優秀脚本】『おかしの家』 次点-『偽装の夫婦』
【最優秀主演男優】阿部寛(『下町ロケット』) 次点-綾野剛(『コウノドリ』)
【最優秀主演女優】天海祐希(『偽装の夫婦』) 次点-石原さとみ(『5→9』)
【最優秀助演男優】中村蒼(『無痛』) 次点-吉川晃司(『下町ロケット』)
【最優秀助演女優】菜々緒(『サイレーン』) 次点-八千草薫(『おかしの家』)
【最優秀若手俳優】三吉彩花(『エンジェル・ハート』) 浜辺美波(『無痛』)