実は、高橋さんは千葉県香取市で室町時代から続く老舗酒販店「油忠」の25代目店主。大学卒業後、経営の勉強を経て、父親の家業を引き継いだ。その際に「SAKELIFE」を立ち上げた。
「だから子どもの頃から店にはよく出ていて、そこで、父とお客さんとのやりとりをもう毎日のように聞いていたんですよね」。
「このあいだ買った酒、おいしかったよ。同じ蔵元で別のはない?」
「いまちょっと切れているんだけど…これなんかうまいよ」
「今日はしゃぶしゃぶなんだけど、あう日本酒って何かね?」
「ああ、それなら三重のあれがいいかな」
こんな店主との雑談や試飲を楽しんでから、お客はようやく購入に至っていた。店にすると自然と客の好みがわかり、お客からすると自然と日本酒の知識が身についた。
一方で、大学時代の飲み会も着想のきっかけになった。
東京の大学に進学したとき、同級生と飲みに行くと、誰も日本酒を頼まないことに衝撃を受けた。聞けば「おいしくないから」と返された。事実、チェーンの居酒屋で日本酒を頼むと、銘柄不明の酒でひどい味だった。「これでは日本酒離れするわけだ…」と思うと同時に「これ、チャンスだな」とも感じたという。
「自分は店で美味しい銘柄に触れていたけれど、ほかの多くの同世代は本当に美味しい日本酒と、その楽しみに触れる機会がなかっただけなんだなと気づいた。裏を返せば、実店舗でのやりとりのようにネットでもしっかりとお酒の楽しみ方を伝えて、本当の日本酒の美味しさを理解してもらえれば、必ず日本酒好きになるはず。そう考えたわけです」。
そのため「SAKELIFE」では、定期購入で毎月1本の酒を送るのみならず「隔月で酒器や酒の肴も送る」サービスを実施した。たとえば日本酒もワインなどと同じように猪口の形や肴によって、同じ銘柄でも風味が変わる。「4種の猪口を同時に送る」などして、それを気軽に実感できるようにしているのだ。
月に4回届く「会員限定のメルマガ」でも、日本酒の楽しみ方をコンテンツとして提供している。「今月の酒」のオススメの飲み方とともに、日本酒の基礎知識やウンチクも伝え、酒を楽しむ“リテラシー”を上げようと試みているのだ。
注目したいのは、実店舗をヒントにした施策は、「パーソナライズ」に徹していることだろう。毎月届く酒は、季節に応じた旬の銘柄が基本。しかし、2回目以降はメールアンケートを元に少しずつ送る酒を変える。例えば「辛口だけがいい」顧客には辛口に絞る。「なるべく珍しい銘柄を飲みたい」という顧客にはユニークな銘柄をできるだけセレクトする、といった具合だ。
「会員1,000名に、今は毎月数10通りの違う銘柄を送っています。機械的にデータマイニングできればいいんですけど、自分の知識も踏まえて手作業でやれますから。大変? いや。もともと実店舗でしてきたやりとりだし、突然、店にきて対応しながらオススメするよりは、パソコンの前でやるほうが、ずっとラクともいえるんですよ」。
月2回ほど実施している会員向けのイベントも人気だ。地方の食材メーカーが自社商品をPRするときのコラボ相手として指名され、都内のレストランで試飲会を開くなど、会員限定もしくは優待で、リアルの場で日本酒を楽しみつつ交流できる場を用意しているという。 「うちの酒屋でも、気がつけば数名のお客さんが店の横のスペースで酒を飲み始めて、語っていることが多かった(笑)。このあたりも店で父がしてきたことを『SAKELIFE』ではネットを通じて行っている感じですね」。
こうして「SAKELIFE」は、20~30代の若い世代がボリュームゾーンとなる希有な酒飯販店となった。冒頭で記した若者の日本酒離れは、「SAKELIFE」に限っては無縁のようだ。こうした懐かしくも新しい試みが原動力となり、日本酒の真の復活は進む。しかも、じわじわと。
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