となると、売れるテレビの条件も変わる。

一家に一台しかなく、それを5年から10年使い続けるのであれば、「とにかく安いものでいい」なんていう買い方はしない。若干高くとも良いものを、という発想になる。

特に、現在テレビを買っているのは、2000年代後半、地デジ移行のための薄型テレビをいち早く購入した層だ。すでに大画面テレビを体験しているから、「今持っているものと同じスペースに置けて、さらに大きくて画質の良いものを」というニーズを持っている。技術の進歩により、8年前に比べると、同じスペースで2ランク大きなテレビが置けるようになっているので、「大画面4Kテレビ」が売れやすい環境になっているのだ。

これは別の言い方をすれば、「画質の良いテレビを作れるメーカーだけが、日本などの先進国市場で生き残れる」ということでもある。テレビはもはや家電の王様ではない。そこまで数が出る製品ではなくなったが、毎年一定の数、付加価値の高いものが売れていく市場になったわけだ。日本でいえば、高級炊飯器と同じフェーズに立った、というと言い過ぎだろうか。

最新モデル「REGZA Z20X」ではHDR時代の画質を追求

「小さいビジネス」の可否は2017年に現れる!?

画質の良いテレビは、パーツをあつめてくるだけでは作れない。映像に合わせてバックライトをコントロールするLSIや、映像の色合いをディスプレイデバイスの特性に合わせてチューニングして表示する仕組みも必要である。もちろん、低解像度の映像を「超解像」する機能や、ゲーム向けに映像の遅延を抑える機能も必要だ。

こうしたことは、ひとつひとつやってみないと身につかない、ノウハウの塊である。東芝はデジタル放送スタートの初期から、「テレビ開発のキモはエンジンにあり」と見切り、それらのノウハウを蓄積してきた。日本にREGZAファンが多いのは、そのノウハウを信頼してのことだ。

REGZA Z20Xに搭載された「4KレグザエンジンHDR PRO」

事前の報道では「研究開発も終息」との記事も見かけた。実際、社内ではそういう検討もなされたのだろう。

だが、東芝のテレビチームにある知見は、とても貴重なものだ。これを捨ててしまうのはもったいない。日本はいまだ世界有数の市場であり、数を追わない前提に立てば、ビジネスは可能だ。

別の言い方をすれば、テレビはすでに「がんばって市場に残った、ノウハウを持つ企業が残存者利益を得るフェーズにある」といえる。ソニーやパナソニックは、外野からいろいろ言われつつも、テレビ事業を捨てなかった。まだ大きな利益を生む段階ではないが、「良いものを求める人に届ける」やり方をしていけば、健全なビジネスが見込めることだろう。

他方、いかに数を追わない時代がやってきたとはいえ、大規模調達を行う企業のほうが、コスト的に有利になるのは事実だ。世界規模で高画質テレビを売るメーカーは、ソニー、パナソニック、サムスン電子、LG電子の4社だけ、という時代になった。世界でビジネスをするのは厳しいが、調達力ではソニーやパナソニックのほうが、東芝より優位である。

東芝は、「国内市場の小ささ」に根をあげず、どこまでじっくりと、自社のノウハウを育てながらテレビビジネスを展開・継続できるだろうか?

おそらく、今年や来年の製品に影響はあるまい。チームがコンパクトになった影響は、良い方向であったとしても悪い方向であったとしても、2017年頃に顕在化するのでは、と予想している。

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