――キャラクターデザイン・総作画監督 西屋太志さんの公式インタビューでは、「制服をブカブカにしたい」という意向で監督と西屋さんの意見が一致したとのコメントがありました。日常シーンの表現が丁寧な京都アニメーションらしい、記号的でない、リアルな表現と感じたのですが、このほかにも中学生らしさを演出するため、主に作画面で工夫した点があれば教えていただきたいです。
実は、「中学生だからこうだ」という風な考え方では一切制作していません。制服がぶかぶかしているという点も、毎年春が来ると目にする当たり前の光景だというところから着想して、取り入れた設定です。
――個人的には、遙が詰め襟の胸元をいじったり窮屈そうにしている場面の描写がとても丁寧で、しぐさだけで彼の心情が伝わってくるようでした。
そう言っていただけるとありがたいです。ですが、伝えたい事柄、心情から仕草をつけるという順番ではなくて、慣れ親しんだ「小学校・岩鳶SC」から、学区が広がって知らない人も増え、制服という慣れないものを着ないといけない「中学校」という環境に放り込んだ時にどういった反応をするかということを、ひとつひとつ、じっくりと追いかけていったらそうなった、という感じです。
特に遙と真琴に関して、『映画 ハイ☆スピード!』と『Free!』シリーズで描かれている年頃は違いますが、遙は遙、真琴は真琴だと思うんです。三つ子の魂百まで、というと少し違うかもしれませんが、人間の根本、一番の根っこはそこまで変わるものではないのではないかと思っていて。中学生という設定を無理に追いかけなくても、ひとつひとつ丁寧に描いていくだけで、「中学生の遙」「中学生の真琴」が浮かび上がってくるのではなかろうか、またそうなってほしいと思いながら作っていきました。
――なるほど、そうだったんですね。旭も、鏡の前で髪の毛を夜中にこっそりセットする場面があり、それも旭というキャラクターがそこにいるように感じられる一幕でした。
中学デビューに張り切った男の子の姿を描いた、旭らしいシーンだと感じていただければ嬉しいですね。
――ここまでお伺いしてきたキャラのほか、TVシリーズ『Free!』の軸とも言える存在である凛、同じく『Free!』では物語の中心にいた渚、TVシリーズでは1話限りの登場でしたが隠れたファンの多い貴澄、そしてこちらも初登場の夏也と尚など、登場人物が非常に多くなっています。ドラマの中で彼ら全員を生かすために苦労した点があれば教えてください。
苦労と言いますか、もっとメインの4人以外のキャラクターにフォーカスして描きたいシーンはあったのですが、泣く泣くカットしたところもいくつかあります。
TVシリーズは、数カ月という長い時間をかけてひとつの物語を追いかけられるという点において、アドバンテージがあると考えています。当然ながら劇場アニメーションでは(TVシリーズと)同じような構成で作り上げていくことは難しく、挑戦の連続でした。
――多くの要素が詰まった『映画 ハイ☆スピード!』ですが、何か指揮を執られる上で心がけていたこと、テーマなどはありますか?
これは単に僕の願いというか希望でもあったのですが、「さわやかな映画にしたい」と思って制作していました。
映像の尺が長くなると、画面から受ける「さわやかさ」を持続させるのはかなり難しいのではないかなと思います。もちろん、長い上映時間の映画にも素晴らしく面白い映画は多くありますが、気持ちよく鑑賞し、気持ちよく終われる、そんな長さを目指したいと思った時に、目指した時間内に収まりきらないエピソードが出てきた、というところです。