客室乗務員は保安要員
――よそとちがった風習などはありますか
うちの会社は名札も下の名前しか書かれておらず、クルー同士男性でも女性でも下の名前で呼び合っていますし、かなりフランクな雰囲気はあります。ただ、フランクで良いというだけではないんです。私は小学生のときに見た航空事故のドキュメンタリー番組で、「客室乗務員は保安要員なんだ」と衝撃を受けました。日本では接客業のイメージが強いかもしれませんが、緊急事態があったときには消防員にも、救急救命士にも、自衛隊員のようにもにもならなければならない。
そういった意味で、やはり男性が向いている場面はあると思います。楽しい、ラフな、気軽な雰囲気の中に、力の強い男性や、経験豊富な女性、色々な角度からの安心を感じてもらえればと。
――女性だけ、男性だけだと足りない部分を補いあえるんですね
そうですね。機内でのトラブルに対して、男性がいるだけで抑止力になることもあるかもしれません。人間関係も、同性が集まる中に異性が入ると雰囲気が変わったり、明るさが増したりすることは確実にありますよね。
キャビンクルーは"あんぱん"
――男性・女性で、訓練プログラムに差はあるのでしょうか?
それは一切無いですね。安全、保安の意識にも差はありません。訓練ではよく、「キャビンクルーは"あんぱん"みたいなものだ」と言っています。お客さんから見えているのはふわふわやわらかいパンだけど、中に濃くて固いあんこがある。あんこがないと、客室乗務員ではない。男性はあんこの部分がより濃くあってほしいというイメージは持っています。男女それぞれの特徴をうまく使いながらやっていければいいですね。
――"あんぱん"の意識を持ち始めたのは、いつごろからですか
前の会社での乗務員訓練の際に痛感しました。安全のプロと言える教官に教わったんです。ただ、あんぱん意識がより強固になったのは、私自身がキャビンクルーの訓練や管理を担当するようになったことが大きいですね。人に教えていると、自分の意識も強固になっていくのだと感じています。
――教える際に言語化するとより強固になると。訓練を受ける方と接した印象はいかがでしょうか
昔は航空会社の数も少なかったので「容姿端麗」「頭脳明晰」「語学堪能」な若い女性だけに開かれている「狭き門」といったイメージがあった時代もあったようですが、今は新しい航空会社もたくさん出てきていますし、もっと身近なものになっているのだと感じます。採用でも多彩な人達を集める方向に、変わってきていますね。
本当に、キャビンクルーの前職がバラバラな時代になりました。直近の訓練生も、下は20歳から上は50歳近くまでいるんです。アメリカなどでは、定年間際の方が憧れの客室乗務員の仕事に挑戦する、という例もあるのですが、日本では無理だと思っていたので、今の状況はとても良いと思います。
――今まで逃していた優秀な方が入ってきてくれることもありそうですね
いったんやめたらなかなか戻れないというイメージもありましたが、「昔飛んでいて、結婚して専業主婦でした」といったような方も入ってくるようになっています。うちであれば、「ジェットスター・バリュー」という行動指針に合う方なら、性別も経験も年齢も関係ないし、キャビンクルーの経験があればなお可という風に。もちろん、入ってからの訓練もしっかり行います。
元看護師とか、元TV局とか、いろいろな経験がある人がいて、前職のスキルを活かせる雰囲気はとても楽しいですね。
「男性でも客室乗務員になれる」
――男性キャビンクルーが増えるにはどうしたら
日本ではどうしても女性の仕事だと思っている人が多いので、私達が普通に乗務をすることで「自分も目指せるんだ」と思っていただけたら嬉しいですね。たまに男性のお客様から「自分もなりたい」「どうやってなったんですか」と聞かれることもあります。男性でもできる仕事だとご存じない方が多いですが、「客室乗務員になれるんだよ」と知っていただきたいです。
――今後も飛び続けるのでしょうか
管理などの業務もありますが、並行してやっぱり飛び続けたいです。この仕事ってやっぱり独特の魅力があるんですよね。サービス要員でもあり、保安要員でもる気持ちもあって、色々な要素が詰まっていると思います。なかなか言い表せないですが、飛んでいるだけでも「なんか使命感があっていいな」と思える。
一機の飛行機に乗り込む編成人数も決まっているし、役割分担もあり、皆の力が合わさって一便を作れる。全員の責任感と使命感でなりたっていくので、少し舞台に似ているかもしれませんね。私は舞台をやっていたので、勝手に思ってるだけかもしれないですが(笑)。
ただ、舞台と違うところはあくまで主役はお客様であること。表向きはニコニコ笑いながら、何もないかのようにホスピタリティマインドを出していますが、実は根底でお客様の安全を守るために、何らかの不測の事態や各種トラブルに常に備えています。 キャビンクルー同士もお互いの特徴を尊重し合いますが、同時に、整備士やその他地上でバックアップしている全スタッフの仕事のリレーを受け、パイロットが飛行機を飛ばし、その機内でキャビンクルーがお客様に相対するという、チームワーク感が、本当に特別な使命感に繋がっています。
やってみると、本当に独特で、色々な側面が詰まった壮大な仕事だなぁと思いますし、その日のフライトが終わると「あ、今日も無事皆でお客様を目的地にお連れできた!」という舞台の終演に似た気持ちになります。キャビンクルーの仕事は人命に関わる責任感が加味されるので、舞台以上に独特のやりがいがあります。
――ありがとうございました