スキー産業がこのまま先細っていくのではないかという予想に対し、業界関係者は懐疑的だ。というのも、日本のスキー産業にはいくつか光明がみえているからである。その光明のうち、もっともわかりやすいのはインバウンド消費の取り込みだろう。

2014年に年計として最高数の1,341万人に達したインバウンドは、2015年9月には1,448万人に達した。すでに最高数値の昨年を抜き、年間1,800万人に届くのではと予測されている。こうしたインバウンドのうちの数%の目的が日本の“雪”を求めているとされる。

その象徴的な例が北海道ニセコ地区だろう。南半球に位置するオーストラリアやニュージーランドのスキー客は、古くから北半球に位置する日本のスキー場に目を向けてきた。そんな彼らが北海道のパウダースノーに注目し、集まりだしたのがニセコ地区だ。以来、オーストラリア企業の投資を呼び込み、地域自治体も協力して“外国人街”を形成した。今ではニセコを訪れた日本人スキーヤーによると「自分たちが外国に来たみたい」と錯覚するほどだという。

羊蹄山を望むニセコのスキー場(写真提供:PIXTA)

ブランドともいえる日本のパウダースノー

前出の井上氏は「日本のパウダースノーは“ジャパンパウダー(ジャパウ)”と親しまれており、海外でも“ブランド雪”と認識されています。日本海を北に横たえた地理環境は降雪に向き、毎晩でも雪が降りやすい。欧米のスキー場の場合は、ドカッと降ったあと、何日も降雪がなく新雪がなかなか楽しめない状況になりやすいので、“朝起きたら新雪”となりやすいジャパウが注目されるのです。事実、インバウンドの目はそうした降雪になりやすい長野県・白馬地区や野沢温泉地区にも向いています」と語る。

インバウンドに注目される白馬地区(左)と野沢温泉地区(右)(写真提供:PIXTA)

となれば、集客に悩むスキー場は、インバウンドの取り込みに向かえばよいのかというと、そうでもないという。

ウィンタースポーツを楽しむインバウンドには2種類に分けられる。一方は長期滞在でジャパンパウダーを楽しみたい欧米からのインバウンド。もう一方は、中国や東南アジアなど、あまり雪に親しんだことのないインバウンドだ。前者にはジャパンパウダーと彼らの長期滞在を支える麓の“街”が必要。ニセコには海外の投資を呼び込んだ外国人街が、白馬には大糸線が貫く白馬村が、野沢温泉には長野県内屈指の温泉街がある。

ジャパンパウダーを期待できない首都圏近郊のスキー場は、まずは雪に馴染んでもらうということで後者の取り込みのほうが向くのではないか。ただ、中国の経済停滞が指摘される中、彼らの消費意欲がいつ途切れるかわからないリスクはある。その意味では欧米からの需要のほうがやはり安定的だろう(井上氏)。

前出の観光庁の資料によれば、アメリカのスキー場は1982年に735箇所あったが、2005年には478箇所まで減っている。それにも関わらず、スキー場の利用者数は82年の5,000万人弱から7,000万人弱まで増えたとしている。こうした情勢を踏まえれば、日本にとって井上氏のいう安定した需要の取り込みの好機といえる。

では、そのほかの突破口はあるのだろうか。