2009年には、初めてMANASLUの名を冠した「PRX-2000T」を発売。このモデルで、牛山氏ら開発チームは技術者としての意地を見せる。PRW-1300では見送った2層液晶を復活させながら、方位・圧力・温度の3種類のセンサーを搭載したアウトドアウオッチとして、当時の世界最薄、11.3mmという薄型化を実現したのだ。

PROTREK MANASLU初代モデルとなった、2009年発売の「PRX-2000」

竹内氏「この時計を手にしたとき、『さすがはカシオ』と思いました。前のモデルで私が『ぶ厚くなるぐらいなら必要ない』と、全否定した2層液晶を再び搭載する一方で、私が望む薄さも実現してきたのですから。

開発の人たちの意地を見せつけられ、『彼らがここまでやってくれるのならば、私も8000mの世界で使った経験をどんどん伝えて、真剣にやりとりをしていこう』と考えるようになりました。このPRX-2000は、お互い本気のせめぎあいが始まる、きっかけになった時計です」

2010年にはアナログとデジタルのコンビモデル「PRW-5000」を発売。

牛山氏「アナログ時計が好きな人は、どれだけデジタル時計が進化してもメインでは使ってくれません。アナログ好きな登山者にも使ってもらえるPRO TREKを作りたい。そんな思いから開発しました。また、竹内さんがアナログ時計好きであることは知っていたので、竹内さんにも喜んでもらえると思っていたのです」

しかし、竹内氏は「PRW-5000」を一度として使わなかった。その理由は、針の搭載によって増してしまった時計の厚みだった。

「PRX-2000」(右)と「PRW-5000」(左)の厚さを比べる竹内氏

2010年発売のアナログ/デジタルコンビモデル「PRW-5000」は、その厚みゆえに竹内氏は使用しなかった

竹内氏「牛山さんから時計を手渡されたとき、すぐに『これは使いませんから』とお返ししたんです。せっかくそれまでやりとりを重ねてPRO TREKが薄くなってきていたのに、また元の使いづらい厚さに戻ってしまい、正直失望しました(笑)。私はアナログ時計好きではありますが、『アナログならば何でもいい』というわけではないんです」

この世に液晶表示が存在しなかったら…

その後、PRW-5000の反省を生かして開発されたのが、竹内氏が8000m峰14座完登の最後の1座、ダウラギリ(8167m)に登頂するときに使用したPRO TREK初のフルアナログモデル「PRX-7000T」だ(2012年発売)。このモデルが画期的だったのは、液晶表示を完全になくしてしまい、方位、高度、気圧、温度を、時針・分針・秒針・モード針という4本の針で表現できるようにしたこと。高機能アナログ時計の新しいあり方を提示した、斬新な時計だった。

PROTREK初のフルアナログモデルとなった「PRX-7000T」の機能について解説をする牛山氏

方位、高度/気圧、温度を、時針・分針・秒針・モード針で表示するという斬新なアイデアを実現した「PRX-7000T」。2012年発売

4本の針を4色にカラーリングした竹内氏特別モデルの「PRX-7000T」。のちに多少のデザイン変更を行い、「竹内氏8000m峰14座全登頂記念モデル」(PRX-8000T)として世界限定300個が一般発売された

竹内氏「PRO TREKといえば、デジタル ―― そうした既成概念を覆した、挑戦的な時計だったと思います。私と牛山さんで『もしこの世に液晶表示が存在しなかったら、腕時計で高度や方位をどう表現するか』と何度も意見を出し合いながら、開発を進めていったんです」

実際の登山では、より直感的に高度や方位を識別できるよう、4本の針を異なる4色にカラーリングした特別モデルを使用。竹内氏も「非常に使いやすかった」と納得する、理想的なアナログ時計となった。