ある日突然、総資産15億円を相続したら? そんな非現実的な出来事を体験した生き証人が芸能界に一人いる。大阪出身で、33歳の芸人・前田けゑ。2012年に亡くなった養母は総資産15億円の資産家で、それを丸々相続してさらに5億円もの相続税が発生することを、前田は養母が亡くなった後に知る。

養子になったきっかけは、養母に身寄りがなかったこと。前田の祖母と友人関係にあったその女性は、祖母の紹介を通じて前田と会食をするようになり、3度目の会食で前田に養子になることを求めた。前田は親に相談することなくその日のうちに区役所で手続きを済ませ、週の半分は名古屋に行って身の回りの世話をはじめ、話し相手になったり、ドライブに行ったり、さまざまな時間を養母と共有した。

"総資産15億円相続"という強烈な冠があるせいか、テレビ出演などではなかなかその人物像までたどり着くことができない。一体、前田けゑという男はどんな人物なのか。"総資産15億円相続"の裏にはどのような苦労、変化があり、そしてなぜ芸人でいることにこだわり続けるのか。父の死後にアパルトマンを相続するという前田のような人物を描いた映画『パリ3区の遺産相続人』(11月14日公開)の試写会が今月10日に都内で行われ、前田がゲスト出演。イベント終了後の彼を直撃した。

"炎上"で注目される存在に

――こういうイベント出演は多いんですか。

芸人の前田けゑ

映画のPRは初めてです。今年2月にネット番組で、相続の話を初めてさせていただいたのですが、それで"炎上"して今に至ります。それまではカスタネット芸のこと以外は、あまり話していなかったんです。

――"炎上"とは?

ヤフーの検索急上昇ワードで1位になりまして、「誰だアイツは? 」と2ちゃんねるとかで話題になったみたいで。その影響なのか、「前田けゑ」で検索しようとすると、関連ワードで「総資産」と出るようになったんです(笑)。

――『ヨソで言わんとい亭』(テレビ東京系)で初めて詳しい話を聞いて、どんな人か確かめたくて会いに来ました。

そんな! 普通の兄ちゃんですよ(笑)。

――今日も映画のPRに絡めて、"15億円相続"の詳しい話をされていましたが、きちんとご本人で説明をしてようやく正しい情報が広がっているような状況でしょうか。

そうですね。テレビでも聞かれたことはできるだけ答えるようにしているんですけど、やっぱりちょっとニュアンスが変わって伝わってしまうこともあるみたいで。

――そうならないようにいろいろと詳しくお話を聞かせていただきたいのですが、3年前に相続されてから周囲とご自身で最も変化したことは何ですか?

単体で芸人としての活動をしていて、養っている人や子供もいないので"責任感"が全くありませんでした。4兄弟の三男ですし、兄弟が親の面倒も見てくれてましたからね。でも、養子になったことで養母の面倒を見なければならなくなる責任が生じました。それから、相続した後に会社を立ち上げたのですが、所有することになった不動産の税金を支払うためには、そうするしかありませんでした。

でも、そういうことばかりしていると芸をする場所が無くなってしまうので、バーを経営することでその問題を解消して、今まで仕事をしてきた人とか後輩とかが働く場所にもなっています。自分にとってはステージのような位置付けで、お客さんに来てもらって芸を披露しているような生活です。

そのことによって、僕の中で「守るもの」が増えました。今は従業員が20人ぐらいいて、僕がすべてを投げ出して海外とかに行ったら、困ってしまう人がたくさんいるんです(笑)。

"15億円男"の本音と私生活

――"総資産15億円の相続"という道に導いてくれた方には感謝していますか。

どうなんでしょう……相続する前も良かったですし、今も良いのでなんとも(笑)。芸をやって売れなくても、「いつか売れる」と信じて切磋琢磨しながらやっていたので、今は今でなるようになってこういう形になっています。感覚としては「普通」「同じ」なんです。周りから「何が変わった?」とよく聞かれますが……いまだにコンビニ弁当ですし(笑)。

――食べ物や金銭感覚がいちばん変わると思っていました。

もちろん使えるお金は増えましたが、感覚は変わりません。

――自分へのご褒美で最も高額なものは?

「今日、がんばったな」と思って自分にご褒美をあげるときは、服を買います。

――普通ですね(笑)。

はい(笑)。昔から服が好きなんです。

――例えば、高級車とか高級腕時計とか……。

車は昔からずっと乗っているミニクーパーで、時計はGショックです。

――ちなみに、周囲から奢ってもらうことはありますか?

奢ってほしいですけど、「お前に奢られるのは癪に障る」とも言われます(笑)。それから、友だちと飲みに行ったりした時に気を遣うようになりました。お会計は割り勘にすればいいんですけど、「ここでボトル入れたらなんか言われそうだな」とか(笑)。でも、いろいろ試してはいます。例えば、後輩の飲み代を全部出してあげたり、タクシーを頻繁に使ってみたり、新幹線のグリーン車に乗ってみたり……それを繰り返して自分にどんな変化があるのかを実験的にやってみたんですが、今は電車移動に落ち着きました。移動時間も考え事をする貴重な時間だったりしますからね。

――何よりも気になるのは、芸人であり続けることのこだわりです。不動産と飲食店経営でも月500万ほどの収入があると聞きました。

僕にとっては、お金の"価値"が違うんです。不動産や飲食はもちろん自分の収入になりますが、芸事は昔からやりたいと思っていたことの延長線上にあります。もっと飛躍したいと思っているからバーや継いだ不動産を経営しているので、すべてがリンクしているような感じで。仮に芸事をやめてしまったら、僕の生きがいが無くなってしまいます。夢は、一番の収入が芸事になることです。