ハードル3 : 販売・サポート

個人で購入する乗用車でも、モノの良し悪しだけでなく、価格競争や、購入後の整備・点検といった課題がついて回る。飛行機ならなおさらのことだ。

すでにボンバルディアやエンブラエルといった強力なライバルがいる中に割って入ろうというのだから、「技術的に優れている」「経済性に優れている」というだけでなく、価格競争力も求められる。難しいのは、「数が出ないと価格が下がらない」「価格が下がらないと数が出ない」という鶏と卵の関係になってしまうことだが、それをどう打開するのか。

試験飛行を行うMRJ(三菱航空機公開映像から)

そしてもちろん、購入後のMRO(Maintenance, Repair and Overhaul)体制も重要になる。つまり、整備拠点やサービス網の構築、そしてスペアパーツや技術情報の迅速かつ的確な提供といった体制作りが不可欠になるということだ。エアラインが自らMROを行う場合でも、MRO専門の会社に委託する場合でも、それを支える体制作りが必要になるのは同じだ。もちろん、MRJを扱えるパイロットや整備士を育成するためのトレーニング体制作りや、そこで必要となるマニュアル類の作成といった話もある。

そこで先にも触れたように、カスタマーサービスについてもボーイング社が支援することになっている。実績や経験がある海外企業の手を借りるわけだが、結果を出すことを優先して、オールジャパンにこだわらなかった決断は評価したい。

ハードル4 : 産業基盤

これをいうと不満に思う人がたくさん出てきそうだが、MRJの国産化率は3割ぐらいだという。エンジンはいうにおよばず、パーツ・コンポーネント・電子機器の中には、海外メーカーの製品を使っているところが多い。

それでも最終的なとりまとめとシステム構築を行っているのは三菱航空機なので、「三菱の製品」ひいては「日本メーカーの製品」といえる。「コンポーネントや搭載機器を外国で作っていたら国産品といえない」ということになると、イギリスやオーストラリア、デンマーク、ノルウェー、トルコなどで作られたパーツが入り乱れているF-35は、いったいどこ製の戦闘機だ、という話になってしまう。

閑話休題。確実性と経済性を重んじる観点からすれば、海外のサプライヤーを広く取り入れたMRJのやり方は、まったくもって正しい。しかし航空関連産業基盤の育成という観点からすれば、国内メーカーの製品ももっと使ってほしい、と思うのは人情だろう。

しかし、だからといって価格競争力を欠いたり、長期的な供給に不安があったりするのでは、いくら国内メーカーにいい製品があっても使えない。まずビジネスとして成り立たせることが先決である。そこで補助金をジャブジャブ注ぎ込んで、無理矢理「国産品」を成り立たせるような真似をしても、長続きしない。

初飛行を終えて県営名古屋空港に戻ってきたMRJ。緊急着陸に備え、車輪を下げのままで初飛行が行われた

これは三菱航空機だけでなく、国の航空産業政策の問題にもなるのだが、どうやってMRJを国内の産業基盤育成につなげていくかということも、必ず考えていかなければならないだろう。それには、まず日本メーカーが参入して強みを発揮できる分野がどこにあるかを洗い出して、そこにリソースを集中する必要がある。「あれもこれも」「オール国産化」などと欲張れば“虻蜂取らず”になるのではないだろうか……。