「アプリ=ゲーム」ではない!
テクノロジー的に、そしてサービス的に見れば、Apple TV 2015年モデルにおける一番の変化は、iOS由来の「tvOS」を採用し、「AppStore」からアプリの提供を開始したことだ。
実際のところ、2012年に発売され、これまで使われてきた通称「第三世代Apple TV」も、プロセッサーはiPhoneで使われてきた「A5」であり、OSもiOSベースのものだった。よって今回初めてiOSベースになった、という理解は正しくない。
だが、過去のApple TVでは自由にアプリを追加できないし、機能を自分の好みの順番に並べ替えることすらできなかった。過去のテレビやレコーダーなど、大半のデジタル家電と同じく、「メーカーが用意した機能を使うしかない」製品だった。
だが一方、ハードウエア構成がiOS機器に近づいていたことから、特にゲーム業界では、「Apple TVがiOSのアプリに対応して、ゲーム専用機の需要を脅かすのでは」との観測が根強かった。2013年あたりには、多くの業界関係者に「ゲームができるApple TV」はいつ登場してもおかしくない……と考えられていたのだ。ゲーム専用機ビジネスが元気を失う一方で、スマホゲームは成長を続けていたからだ。
だがご存知のように、そういうApple TVは2015年になって、やっと現れた。アップルがなぜここまで時間をかけたのかはわからない。だが、実際に触ってみると、もはや、「アプリ対応したからゲーム機としてのApple TVが急成長する」というものでもないのだな……、と理解できる。
現在、Apple TV用のAppStoreにあるアプリは多くない。テスト段階ではAppStoreが正式稼動しておらず、限定的なデベロッパーがアプリを提供していたにすぎないからだ。だから、「数」で評価するのはフェアではない。
むしろ、Apple TVでのゲームに感じたのは中途半端さである。
2015年モデルでSoCとして搭載されている「A8」は、過去のApple TVよりはずっと強力だが、最新のiPhoneに比べると見劣りする。そしてもちろん、現役のゲーム専用機、PlayStation 4などと比較するとさらに性能は低い。ゲームのグラフィックスという点で、「これを買ってゲームをしよう」と思わせるほどの力はない。
ゲームはグラフィックスだけで決まるものではなく、もっとカジュアルな路線もある。そこには不足ない性能だ。だが、そのレベルならばスマートフォンで十分だ。大画面でのプレイについても、iOSが備える「AirPlay」を使えば、iPhoneの画面をテレビに映して楽しめる。
新製品を随分批判するものだな……、と思われるだろう。だが、そうではないのだ。
「アプリ」という言葉で直裁に「ゲーム」と発想するのは正しくない。Apple TVのような機器のアプリ対応はゲームに向く、と多くの人が予想していたのだが、むしろそこは余禄というか魅力の一つでしかないことが、使うほどにわかってくる。アプリというより広い世界をテレビに持ち込み、それを「テレビをもっと快適な機器にする」ために生かそう、というのが、Apple TV 2015年モデルの方向性である。