海外バイヤー注目の『マツコとマツコ』『EXILEカジノ』
総務省の発表によると、日本の番組が実際に海外に輸出されている金額は、年間138億円ほど(2013年)。主力はアニメで、『ポケットモンスター』や『遊☆戯☆王』などの作品が世界でもヒットしていることはよく知られている。今回会場ではドラゴンボールの新作『ドラゴンボール超』や、イタリアで8月から先行放送された『ルパン三世』新シリーズなどが注目されていた。
しかし、売れているのはアニメだけではない。日本が世界ヒットを狙えるジャンルに、実はバラエティも名乗りを上げている。国内では全盛期に比べて視聴率が落ち着き、「ひな壇番組ばかりでつまらない」などと言われがちだが、60年以上にわたって国内マーケットだけを視野に入れて作られてきた番組アイデアが、海外のバイヤーには新鮮に映るようだ。
例えば、日テレが新作としてカンヌに持ちこんだ『マツコとマツコ』。アンドロイド技術を駆使して作られた人間型ロボット・マツコロイド(モデルはマツコ・デラックス)を使った"世界初のアンドロイドバラエティ"の発想力に関心を寄せたバイヤーは多かった。
また、期間中、1,000人収容の会場がほぼ満席になる、MIPCOM人気のステージプログラムでは、世界が注目する新作バラエティ全25本の中に、フジテレビの番組が選ばれた。アメリカやイギリス、オランダ、ドイツ、イスラエル、スペインなどの番組が並ぶなかで、アジアで唯一、同局の『アマゾネスアイランド』と『EXILEカジノ』の2本がエントリー。会場の大型スクリーンに、女性芸能人がサバイバルゲームに挑む『アマゾネスアイランド』での遠野なぎこや、矢口真里らの思わず本性が表れる肝のシーンが流れると、あちこちから笑いが起こった。言葉に頼らない「ノンバーバル」な面白さは、国境を越えて伝わるのだ。
世界でロングラン人気の『SASUKE』『¥マネーの虎』
ただ、どんなに番組の内容が面白くても、海外では言葉が通じなければ、世界ヒットに至らない。そこで、バラエティは「フォーマットセールス」という手法で取引するのが主流で、スタジオセットや構成、演出など、番組の中身をフォーマット化して世界に売り出す手法がある。売れれば、地域に合わせてカスタマイズしながら番組を制作することができるため、言語や文化の壁を越えて、世界でヒットする可能性が広がるという訳だ。
日本で放送された有名な番組では、イギリス発の『クイズ$ミリオネア』などがある。日本の番組もこの手法で売り、TBS『SASUKE』や、日テレ『\マネーの虎』、フジ『料理の鉄人』、テレ朝『格付けしあう女たち(「ロンドンハーツ」)』などが成功している。
例えば、巨大フィールドアスレチックの『SASUKE』は、2006年からアメリカのケーブル局・G4で現地版『American Ninja Warrior』のタイトルで放送が始まり、2009年には米4大ネットワークの一角・NBCに進出。成功街道まっしぐらだ。ゴールデンタイムの人気番組として続き、今年8月31日に放送された最新シーズンのラスベガス決勝第1ラウンドは、シーズン最高視聴率で、同時間帯1位を記録する盛り上がりをみせた。
それから『SASUKE』のフォーマット販売は、アジア各国をはじめ、スウェーデン、トルコ、イギリスにも広がっている。今回のMIPCOMでは、サウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国をはじめ、モロッコ、リビアなどの北アフリカ、さらには、エジプトやヨルダンなどを含む、アラビア語圏全17カ国におよぶ中東地域で制作される契約を結んだことが発表された。
一般人が事業計画をプレゼンする『\マネーの虎』も成功例としてよく語られ、国際版はアメリカをはじめ、全部で26の地域と国で実績を作っている。はじめに売れたイギリスでは『Dragons' Den』のタイトルで今でも親しまれ、公共放送・BBCで放送が始まってから、今年でちょうど10年。7月から13シリーズがスタートしたところだ。ロングランで人気を保つ番組として評価され、米・ABC版は、テレビ界のアカデミー賞と言われる「エミー賞」を2年連続で獲得した。
中国市場を狙う日本のバラエティ
フォーマットセールスは、現地版が放送される度に制作費の5~10%が収入として得られるビジネスモデルになっている。現地版が広がり、放送が続けば続くほど、もうかる仕組みだ。それゆえここ最近、欧米並みに制作費が上昇している中国との取引も注目されている。今回のMIPCOMでも、中国と組んだ番組プロジェクトが話題に上った。
具体的には、フジテレビが大型企画を仕掛けているところで、番組タイトルと中国の放送局の名前が、まもなく発表される段階まで進んでいる。監修するフジテレビ国際開発局事業開発部の藤沼聡氏にMIPCOM現地で話を伺うことができた。
藤沼氏は「大掛かりなセットを要する番組を計画しています。プロデューサーをはじめ、カメラマン、作家、ディレクター、一部の出演者を含めて総出で制作指導を行い、番組フォーマットを売るだけでなく、監修も含めた展開になります」と説明。将来的には、関連グッズなどのマーチャンダイズも視野に入れているという。そして「今、中国で当たればデカイ。社運をかけた番組も多く、ゴールデンタイムの番組制作費が日本よりも高い場合もあります。今後、中国政府の規制が入ったとしても、リスクがないビジネスだから攻め時です」と意欲的だ。
海外に単身赴任するお父さんを追ったテレビ東京の『世界で働くお父さん』は、中国版が既に放送され、テレビ朝日がフォーマットセールスの目玉として売り出し中の『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』も、やはり中国との契約を決めている。今後、現地制作が進められる可能性は高い。
MIPCOMでは番組取引の現場を目の当たりにしながら、世界のテレビマーケットで何が起こっているのかを知ることができる。後編は、日本の各地域で放送されているローカル番組が世界で売り出されている様子をリポートする。