一方、学校だけではなく、産学官が共同で取り組むことにより、強力にICTの活用を推し進めているのが、東京都の日野市立平山小学校(以下、平山小学校)だ。実施された公開授業の中でも、もっとも印象的だったのが「タブレットPCで宿題に取り組もう」をテーマとして掲げた6年2組の授業。校内にある図書館とメディアセンターを自宅に見立てて、教室から家庭へ戻った生徒がタブレットを使って宿題に取り組み、また教室へ登校してくるといった内容で、生徒がタブレットPCを持ち帰り、自宅で学習するための練習というわけだ。

授業では、生徒ひとりに1台のタブレットPCが渡される。それぞれの端末にはOffice 365 Education版のOneNoteがインストールされており、クラウドを利用して相互に通信ができる仕組みだ。タブレットPCを自宅に持ち帰って利用する際のポイントを確認したのち、生徒たちが図書館・メディアセンターへ移動する。移動を終えた生徒は、ランドセルからタブレットPCを取り出し、端末を起動。配信された問題に対して、解答を書き込んでいく。タブレットPCの操作には慣れているようで、着々と宿題を進めていくが……ここからが従来の学習とは少々異なる。書き込んだ解答が、すぐに採点され、間違えた箇所などにはアドバイスが表示されるのだ。教諭がクラウド越しに、生徒の解答を確認して、すぐに対応しているのである。

授業であtブレットPCの取り扱い方を改めて確認。教科書やノートの間に挟んで、タブレットPCを収納し、移動を開始する生徒たち

図書館・メディアセンターに到着して、宿題に取り組む生徒。教諭側の端末からクラウド経由で生徒の端末を確認して、採点したり、コメントを書き込むことも可能

教諭は自分の端末で、直接、生徒の解答を確認して採点していく。採点の様子は電子黒板に表示されていた

本当に授業が終了。普段、タブレットPCは、学校で保管されている。生徒が所定の収納場所にタブレットPCを戻す

さて、公開授業を通して、教育現場でのICT活用をみてきた。授業をサポートするツールとして使う人吉東小学校、ICTをフルに活用して新しい手法にチャレンジする平山小学校。2つの小学校で、ICTへの取り組み方の違いはあるものの、今後の授業でICTの活用を前提としていることに変わりはない。

そこで、気になるのは、システムの構築や運用、デバイスの導入など、学校だけでは解決できない事柄だ。今回紹介した2つの小学校も、冒頭で紹介した通り、マイクロソフトの教育機関向けのプログラム『Microsoft Showcase Schools』に参加するなど、IT企業の支援を受けながら仕組みをつくりあげている。つまり、IT企業の動向を探れば、ICT活用の将来が垣間見えるのだ。

さっそく、日本マイクロソフトの文教本部で教育現場のICT活用に取り組む原田英典さんに、今後の同社の狙いを伺ってみた。

日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部文教本部の原田英典さん

「現在、授業でのICT活用には、2つの段階があると思います。1段階目は教諭が電子黒板を使って教材を映して生徒が見るというケースです。2段階目は人吉東小学校や平山小学校などのように、生徒が端末を持ち、ICTを活用しているというケースです。この第2段階に入ってきたタイミングだと感じています。今後は、そういった環境を広げていくのが目標になりますね」

原田さんによれば『Microsoft Showcase Schools』に参加している教育機関は、ICT化が進んでいる学校だという。そういった環境を定着させるのが、目の前の目標ということだろう。それでは、その先には、どんな世界が待っているのだろうか。

「現在は中段の“左脳を訓練”、“右脳を刺激”の段階」と語る原田さん。上段の“論理的思考”に向けて、より深く、ICTの導入を推進していくのが目標とのことだ

「第2段階の学校が増えて、ICTが身近な存在になり、論理的思考などのいわゆる21世紀型スキルが身についてきたら、次はさまざまな課題を解決するための道具として、パソコンを活用してほしいですね。総務省のドリームスクールという実践授業がありまして、プログラムの授業を弊社で受託しているんですね。内容としてはプログラミングの教育なんですが……。プログラミングの技術を覚えるだけはなく、論理的思考やコミュニケーション力など、第2段階で身につけたスキルを組み合わせて、チームで課題に取り組んでみたり、アプリの使い方を工夫してみたり、プログラムというお題のもとに、より論理的な学びを促す教育を実践していこうとしています。それで、将来的にWindowsパソコンを利用していただけるとうれしいですね(笑)」

教育現場でのICT活用は、まだまだはじまったばかりで、いまだ模索している段階だ。とはいえ、今回紹介したマイクロソフトのほか、富士通や東芝といったIT企業が積極的に教育分野に取り組んでいる。今後、教育機関がICTとどう向かい合っていくのか興味深いところだ。