原作:モンキー・パンチ(C)TMS

――それだけ懐の深いキャラクターってなかなかいないですね。

『ルパン三世』のTV第1シリーズ(1971年~1972年)は、前後二つに分かれてましたよね。おおすみ(正秋)さんの時期と、途中から高畑(勲)さんと宮崎(駿)さんが入ってきた時期と。この2人が入ったことで方針が変わって、作風がマンガっぽくなったんです。でも僕は、おおすみさんの『ルパン』も、高畑さんや宮崎さんが入った後のものとあまり違うとは思わないんですよ。それも『ルパン』だなと納得できるというか。『ルパン』というのは、それだけの深さを持つキャラクターなのではないでしょうか。

だから、TV第2シリーズ(1977年~1980年)に参加が決まって、「あの『ルパン』をやれるぞ」と喜んでいたのですが、このルパンはあっけらかんとしていて、「第1シリーズとはちょっと違うテイストだな」と思ったりしたこともありました。今回のルパンはどちらかというとTV第1シリーズに近く、あまりバカバカしいことは控えて、もうちょっとシリアスな部分があってもいいかなと思っています。ストーリーにもシリーズを通した裏設定もあるので、その設定に触れるところはかなりシリアスになっています。裏設定についてはまだあまり話せないんですけどね(笑)。

――今回のTVシリーズを作る上で、"軸"にしたのは『ルパン』のどのような部分でしょうか?

「5人のキャラクターの違い」ですね。これは脚本の打ち合わせをして、だんだんそうだなと思ったところです。ルパンは、いつも女の子を追いかけて自由に生きています。次元はルパンの相棒としてある程度一緒にいて、女の子にはちょっと奥手だけど、銃の腕前は一流。五ェ門はストイックに生きていて、いつもくっついているってわけではなく場合によってはルパンと対決することもある。不二子は、本当はルパンのことが好きなのかもしれないけれども、今のところそんなことはおくびにも出さず、自分の利害がある時だけパッと寄ってきたり、また裏切ったりする。それぞれがいつもくっついているというわけではなく、何か起こると必要に応じて集まるという関係性、それぞれの性格や立場の違いが物語に深みを与えて、バックストーリーも感じさせてくれるのではないかと思っています。そのために、TV第2シリーズのように5人いつも一緒というのは避けていますね。

原作:モンキー・パンチ(C)TMS

加えて、今回はストーリーもバラエティーに富んでいます。シリーズの中でのテーマはあるものの、それぞれのストーリーは5人ほどのライターさんが持ち回りで担当し、各自の個性に沿ったエピソードを作っています。中には、ちょっと不思議なストーリーもあったり、それから泣かせるようなものもあったり。それからハチャメチャでアクションだけの回もあったり、サスペンスもあったりと多様です。それに、短い時間の中にも伏線を張って展開させるなど工夫も凝らしていますし、セリフもなかなか粋な言い回しが多いんですよ。あまり説明しないような、「ここはこういうことになっているんだろうな」と想像させるものなど、非常によくできている。含みがあるセリフだと、絵を作る側もその時の表情が、キャラクターの感情に対して適切なのかをその都度確認しながら作業していきました。

――作品を拝見して、屋根を駆けまわって落ちそうになったりと、『ルパン』ならではのアクションシーンがちりばめられていることに感動しました。

それは、『ルパン』の"命"ですから。ルパンたちは、高低差があるところで現実には考えられないようなアクションをやったりします。でも、その動きには破綻がなく、理屈にのっとって動かすように気を付けています。アニメーションですから、誇張になるところも登場しますが、物やキャラクターが動く時の"重量感"はできるだけ表現したいなと思っています。それができていないと、上から操られているみたいにウソっぽくなりますからね。具体的には、飛び上がる時はぐっと沈んで、飛び上がると上で止まる動きなどですね。「慣性の法則」も、アクションをやる上では押さえていないとウソになっちゃいます。とはいっても、時々は重力を無視したりはしちゃいますけど(笑)。崖から落ちた途中でバタバタしたりとか、ルパンがよくやりますよね。

――友永総監督は、そういったアクションのパイオニアだと思うのですが、参考にされてきたものはあるのでしょうか?

昔の映画はたくさん見ましたね。アメリカのマンガの『トムとジェリー』も好きなので、ひょっとしたら動かし方でも影響を受けているのかもしれません。あの破壊的な動きとか、オーバーな動きとかね。走り回って止まる時に、「キュキュキューッ!」とブレーキをかけたりするのが、マンガっぽいけど現実味を感じさせるんですよ。そういうところは『ルパン』にも取り入れているんじゃないかな。

『ルパン』のアクションでは、車も大事な要素の一つです。『ルパン三世 カリオストロの城』以降、ルパンはフィアットに乗っていますが、あれはその時のルパンの心情を反映する車なんです。場合によっては「チョロQ」のように動いたりするでしょう? 少しマンガっぽいですが、あれは慌てているルパンの気持ちそのものなんです。ただ、それでもサスペンションをリアルに描いたり、タイヤの動きを逆にすることで、動きに存在感と本物っぽさを加えています。今回は車も3Dを使っているのですが、フィアットは手書きです。逆にパトカーとか最新鋭の車は3Dで無機質さを出して、そのコントラストを出せればと思っていますね。

■プロフィール
友永和秀(ともなが かずひで)
1952年4月28日生まれ、福岡県出身。
アニメーター。
OH!プロダクションを経て、1980年にテレコム・アニメーションフィルム入社。 TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の七色星団の決戦シーン、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のカーチェイスのシーン、『銀河鉄道999』(1979年)のクライマックスシーンを描き、高い評価を受ける。『ルパン三世』ではTV第2シリーズで原画を担当した。