『妖怪ウォッチ』における帝王判断

現在レベルファイブ最大のヒット作となっている『妖怪ウォッチ』について日野氏は「僕のプロジェクトの中では優等生で、色々な連携が整った状態ではじまった。だから周りの理解度が高かったので、楽しい記憶しかない」と笑顔で紹介。日野氏は『妖怪ウォッチ』のクロスメディア展開の中で、会社の枠を越えた総合プロデューサーとして、コンセプトの見張り番的な役割を果たしている。「契約上何かがあるわけではないですが、これまでの実績により各社の皆さんが僕の意見をしっかり聞いてくれるようになったので、ユーザーに対して筋の通った提案ができていると思います」。

日野氏が『妖怪ウォッチ』で行ったのは、アニメフォーマットへの介入、それもストーリーではなく番組構造への介入だったという。「番組スタッフの選定」「家族で視聴することを重視して、バラエティ番組的なオムニバス形式で制作」「作品内で物語が続くシリーズ内シリーズ」「エンディングに子どもたちが踊れるCGによるダンスを入れる」「子供向けだけでなく、家族向けの過激な内容に」といった施策は日野氏主導で行われた。

日野氏は家族を意識した内容・過激な内容の一例として、まずはアニメ『妖怪ウォッチ』内の「金妖スペシャル・コマさん探検隊」がネッシーの謎を追う回を紹介。パロディ元と思われる『水曜スペシャル』は1986年に終了した番組であり、子供向けではないのは間違いない。日野氏は続いて「過激さ」の一例として、意志を持った人形が巨大な歯車に頭を挟まれてクビが飛ぶシーンを紹介。「全国の子供たちが泣いてしまい、大変な苦情が集まりました」と反省の色を見せていた日野氏は「家族で見るための実験を色々やっているので失敗することもありますが、その冒険は何が起こるかわからない楽しさにつながっているのではないかと思います」と語っていた。

なかよくしなさい。

そして「『帝王判断』とは、経営判断とクリエイティブの両案件に対して全責任をもって行える判断。こういう立場があったからこそ乗り切れた局面もあった」と語った日野氏は、講演のまとめとなる教訓として「経営者とクリエイターが深く理解し合い、総合的な視野において判断できることが成功につながる」とし、実際に経営者とクリエイターが相互理解することは非常に難しく、だからこそクリエイターと経営者の距離が近い(両者を兼ねる)ことがレベルファイブの強みであると断言。

具体的なアドバイスとして日野氏は経営者には「クリエイターを過保護にするな」「しっかりと、なぜ開発をやめないといけないのか、なぜ仕組みを変えないといけないのか、説明しないといけない局面が多いです。面倒でもクリエイターと話して、過保護に放任するのではなくしっかり対話をしましょう」とアドバイス。クリエイターに対しては「理解してもらう努力を怠るな」「はじめからうちはそういう方針なんです」「変わらないです」とあきらめているクリエイターが多い。それを変えること、理解してもらうことは可能なはず。経営判断をする人にしっかり問いかけることで答えは見つかるんじゃないかと思います」と伝えた。

最後に日野氏は経営者とクリエイターへのアドバイスを総括して、「なかよくしなさい!」と語り、講演を締めくくった。基調講演のラストでは、10月17日に九州大学で開催される開発者向けカンファレンス「KYUSHU CEDEC 2015」の基調講演を日野氏が行うことが告知され、テーマは「日野流企画立案術」になるという。