原作を「畳む」作業が必要になってくる

――映画には、原作にはない、ハラハラするアクションシーンもたくさんありましたね

原作のシーンをもとに、ハラハラを盛ってるシーンはかなりありますね。東野さんの原作が、もともと600ページで、それを二時間にしないといけなかったわけです。原作から削っていく作業を「畳む」というんですけど、畳んだ上で、映像を見たときに、「すげー」とか「ハラハラする」というシーンは必要じゃないですか。そのハラハラする部分が、さっきも言ったように間口の広さやエンターテインメントにつながると思うので、そういう映画の醍醐味の部分は盛っていきたいなと思いました。

――アクションの部分を見ていると、ハリウッド作品のような感覚も覚えるなと思いました

それはうれしいです。さくさくと展開するといいなと思いながら脚本を書きました。登場人物も多いですし、同時に4つくらいの場面が進行していくお話なんですね。その中に、じっくり芝居を見せる場面ももちろんほしいけれど、そのためにも無駄な部分はできるだけ作りたくない。ハリウッド映画は、テンポ良く、「畳む」べきところは畳んで、情報を手短に、かつ鮮烈に伝えるということが良くできていて、そこは参考にしていました。例えば『マッドマックス』は、最小限までセリフを削っていたけれど、伝えるべき情報も感情もきちんと描かれていましたよね。やっぱり、ハリウッドは脚本にかける手間も時間もすごいんですよね。

――さきほど、原作にハラハラするシーンが追加されているという話になりましたが、セリフにも、綾野剛さん演じる雑賀の「蜂は巣を守るために囮役を飛ばす」というものなど、原作にはないものがあると聞きました

脚本は全部で17稿で完成したんですけど、そのセリフは、7稿か8稿あたりで思いつきました。蜂の生態を調べていたら、ニホンミツバチは自分の巣に敵を誘い込んで敵を殺した上で…ということがあるのを知って、雑賀のやっていることとつながっているのかなと思ったんです。原作では、雑賀というキャラクターは、過去に何があって、現在何をしているのかが細かく描かれてるんですが、映画では、雑賀の過去や、今何をしているのかを伏せた謎の存在になっているんです。でも、雑賀の行動を裏付ける彼のネガティブな感情を観客に伝えないといけない。もちろんセリフも少ないので、原作に何十ページもかけて語られたものを、短いセリフに凝縮しないといけないんです。だから、雑賀の性質が詰まったセリフをオリジナルで作ることになりました。本来なら、セリフに力みが入るといいことはないんだけど、雑賀に関しては、ひとつひとつのセリフを濃いものにしないといけないので、そこは意識しましたね。

――『天空の蜂』は、楠野さん自身はどんなところを見てほしいですか?

そうですね。主人公の湯原を演じる江口さんにしても、最後にヘリコプターにのるアクションシーンを演じられていますが、それも無理やりアクションシーンがあるわけではなく、湯原が技術者であり、ビッグBのことをわかっているから、ヘリに乗るわけなんです。湯原は決してスーパーマンではないけど、そこに「やるしかない」状況があるんですよ。湯原以外のキャラクターにしても、技術者、自衛官、警察など、おじさんたちが、それぞれの領分を犯さないで、それぞれの仕事をしているんです。だから、男性も女性も、このおじさんの働き方に共感するとか、このおじさんいいなとかという、「推し」のおじさんを見つけると、より楽しめるのではないかと思います。

『天空の蜂』
9月12日(土) 全国ロードショー
(C)2015「天空の蜂」製作委員会

監督:堤幸彦
原作:東野圭吾「天空の蜂」講談社文庫
主題歌:秦 基博「Q & A」(オーガスタレコード/アリオラジャパン)
脚本:楠野一郎
音楽:リチャード・プリン
制作:オフィスクレッシェンド
企画/配給:松竹


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。