――役作りの上で髪を変えたり、体重を増減したりなど外見の変化については、役者としてどのようなお考えですか。

外見を変える作業は誰にでもできることですが、役作りはそれだけではありません。自分でできる努力をすることは当たり前であると同時に、外見を似せることはかなり大切なことでもあります。初めて映像に映ったときに、いかにお客さんを引きこむかは、やっぱりビジュアルで決まってしまいます。

できることならなるべく近づけたいという意志は常に持っています。アルミンは原作では金髪のキャラクターなんですけど、今回はこの黒髪にビジュアル要素が込められています。実写版の舞台は現代の日本がベースになっています。金髪と天秤にかけたときに舞台設定の方が大切で、そういうバランスの選択はあります。

――脚本を受け止めて「黒髪」であることも納得したからこそ、撮影に臨むにあたって不安もなかったと。

そうですね。あとは内面が原作と変化しているキャラクターもいた中、アルミンに関してはほとんどそのままだったので、これであれば「ちゃんとアルミンだった」と言ってもらえるようなキャラクターにできるという確信が、台本を読んだ段階でありました。外見も変わって内面も変わってしまったら、やっぱりどうがんばっても寄せるのは難しい。でも、アルミンとしての役割をちゃんと全うしていましたし、作品を観終わったころには「アルミンだった」と言ってもらえる自信はありました。実際の評価は公開されてからですが(笑)。

この作品に限らずですが、その作品が「何を通して一番世に出ているか」というところは大切にします。『進撃』は原作が売れていることは間違いありませんが、アニメのインパクトもかなり強烈。そこからファンになっている人も多いので、「アニメまでの印象が付いている作品」というカテゴリーで挑みました。そうなると、しゃべり方まで引っ張ってくる必要があります。例えば『GANTZ』もアニメ化はされていますが、『GANTZ』のメインは絶対的に漫画。そうなるとアニメの方を意識しなくていいので、自由度は高くなります。そうやって、自由度の幅を調節しています。

――『進撃』のような"役作りのバランス"で挑んだ作品はほかにありますか。

うーん……舞台だったらありますけど……。『アカギ』もわりと半々ぐらいだと思っています。萩原聖人さんというものすごいカリスマがアニメキャラを演じていらっしゃるので、そのイメージは麻雀好きや原作好きにはすごく強烈に残っています。そこを気にせず、漫画を平たく読んだだけで演じるとすごく世間のイメージと乖離したアカギになってしまいます。萩原さんのあの淡々とした熱のない話し方なんかは絶対に参考にした方がよくなる。そういった点では、アニメのエッセンスを一番引っ張ってきたのは『進撃』だと思います。ビジュアルが遠いからこそ、そっちをより強くしないとよりアルミンになれないというか。

――今回の実写化にあたって、巨人の捕食シーンがどのように描かれているかにも注目が集まっていたと思います。原作好きの本郷さんとしての率直な感想は?

僕はそういうグロテスクなシーンが苦手でも好きでもなくて。でも、『進撃の巨人』の世界観としては人間があんなに蹂躙されるというか、巨人を恐怖の対象と認識させるためには必要なことだと思いますので、結構攻めてた印象でした。

――現場ではヌルヌルの液体まみれになるシーンがあったり、潔癖症で虫が苦手な本郷さんがダンゴムシに四苦八苦したこともあったそうですね。

その衛生上のことを、結構不透明にされていました(笑)。普通だったら、安心させるために事前に詳しく説明してくれるじゃないですか。でも、現場に入って体につける粉の成分を聞いても「うん、まぁまぁ」みたいにごまかされて…。あとは汚れを再現するために最初はメイクをしていたんですけど、終盤になると人手が足りていなかったのか、「汚し足して!」の号令が出ると、みんな自ら泥とかを塗りはじめたんです。その光景を見て、「……泥だよ? メイクじゃないんだよ?」と信じられなくて。監督からも「地面に寝っ転がってゴロゴロして」とか言われて。みんな一流の役者さんなのに……とか思いながらも、一緒にやりました(笑)。

全然、クレームとかではないんですけど、すごく新鮮で面白いなと思った場面でした。みんな焦燥感の中で、細かいことはどうでもよくなっちゃったんでしょうね(笑)。でも、今回だけじゃなくて、どんな作品でも最後はそんな感じになってしまうから撮影の現場って不思議ですよね。

――本作は人間が壁の外側へ行くことで、新たな価値観や世界を見出していこうとする物語です。本郷さんの俳優人生で、これまで壁に感じたことやこれから壁を乗り越えていきたいことといえば、どんなことですか。

そうですね、うーん……この仕事はなかなか壁が多い仕事だと思います。例えば、能力があるだけでは一番上に行くことはできないし、才能があって努力もして、もともと生まれ持ったビジュアルを兼ね備えていても、さらに類稀なる強運を持っていないと一番上には行けない。必ずしも努力が報われる世界じゃありませんし、そういう意味では壁だらけの世界。そこで10年以上生きていますが、まだまだ上にはたくさんの壁が待っています。技術が劣っていくことはないと思いますので、もう1つ大きな強運をつかんで、壁を乗り越えられたらいいなと思います。

■プロフィール
本郷奏多(ほんごう・かなた)
1990年11月15日生まれ。宮城県出身。身長174センチ。O型。2002年の映画『リターナー』で俳優デビュー。映画『テニスの王子様』(06年)、『NANA2』(06年)、『GANTZ』(11年)、ドラマ『未来日記』(フジテレビ系12年)、『ちゃんぽん食べたか』(NHK15年)、『アカギ』(BSスカパー!15年)など数々の話題作に出演。11月7日に公開される映画『シネマの天使』で、女優の藤原令子と共に主演を務める。