――劇場版のシナリオ作りと、普段の漫画の作り方では違いはありましたか?
僕は絵で考えながら描いていくタイプで、漫画の場合はネームで描きます。でも、映画のシナリオをその方法でやってしまうと、劇場版も「全部チェックさせて!」となってしまうので、劇場版のシナリオはテキストで作りました。もちろんテキストでシナリオを書いていても、頭の中で絵が動いているんですが、それを描いてしまうとアニメスタッフ側の動かし方を制限してしまうし、僕も描いた以上その通りにしてほしいと思ってしまう。それは踏み込み過ぎだし、そこに入り込んでしまうと漫画が疎かになって本末転倒になってしまうんじゃないかと。だから、僕は材料だけお渡しして、あとはアニメスタッフさんにお任せするという形をとりました。
――材料というのは具体的にいうと?
ストーリーの流れと、『弱虫ペダル』は会話劇が重要なので、キャラクターとキャラクターが「この状況後に何を喋るか」という部分を丁寧に書いて「間の部分は繋げてください」という形にしました。結末が決まっているので、物語としては大きく進展していく話ではないですし、「ここで終わらないといけない」という軸がベースにあるので、会話劇とシチュエーションと誰が託して誰が勝つというのが多分一番面白いはず。そこだけハッキリと渡しておけば何とかなるだろうと(笑)。だから、アニメスタッフ側で削ってくれればいいと思って、僕としては多めの量をお渡ししたんですが、「ちょうどいいです」と言われて(笑)。結構な情報量が入るなと驚きました。
――劇場版の見どころを教えてください。
ネタバレにかかわってしまうのでマイルドなところでいうと(笑)、新キャラクターの吉本進です。怪我でインターハイに出られなかったというバックグラウンドを持つ彼が、今回のレースでどう暴れるか……というところ。ホスト校の意地も魅力の一つです。
――吉本はどういう発想で生まれたキャラなのでしょう。
熊本台一はネタキャラポジション的なところがありますけれど、もちろん彼らの中にもインターハイでの目標があって、いろいろ練習を積んできたという背景がある。そんな彼らの中に「もし、辛い部分があるとしたら何だろう?」と考えたんです。怪我でレースに出られないというのは、実際のロードレースでもよくあることなんですが、漫画だとフルコンディションで出ないと面白くないので、僕の漫画の中では全員がフルコンディションで出ているという設定にはなっています。
でも、そうじゃないチームが一つあった方がリアルだし、熊本台一にそういうキャラクターがいてもいいんじゃないかと。「ロードレースの真実」みたいなものを描けるかなと思って彼を作りました。
――他のキャラを作る際も、「ロードレースの真実」を考えながら作っているのですか?
作っています。例えば、実際のロードレースでは選手たちが補給食をパクパクと食べるんですが、そのシーン自体にあまり意味がないのでずっと描いてこなかったんです。そこで、とにかく食べるキャラの新開を作って、ロードレースの中で食べるという行為を表現する位置付けにしました。
後は、ロードレースの選手ってみんなサングラスをしているんですが、漫画だと全員サングラスだと見分けがつかない(笑)。だから漫画的な表現として全員裸眼で登場させて、金城だけがサングラスをつけるという表現にしています。ほかにもロードレースを表現するポジションのキャラは何人かいますね。
――舞台化やアニメ化もされ、女子からの人気も非常に高い『弱虫ペダル』ですが、最後に、これほどまでの「女子人気」をどのように捉えているかお聞かせください。
週刊少年誌なので、僕としてはずっと少年に向けて描いているつもりです。ただ、サイン会をやっていると、回を重ねる毎に女性比率が増えていっているんですよ。単純に「すごいな~」と思っていましたが、途中から「増えすぎじゃない?」とも思ったり(笑)。ただ、秋田書店調べによるとコミックスの売上は男女比率が同じくらいらしいです。女性の方が声が大きいしアクションが早いので、女性人気がすごいというように見えるけれど、語らない男性ファンや少年たちも同じくらいいるんじゃないかと思います。
少年向けだったら可愛い女の子をもっと描けばいいと思われるかもしれないけれど、描かないのにも理由があって。レース中に女の子が出てきて「がんばって!」と声をかけるだけで、がんばっているキャラクターたちが女の子のためにがんばっているように見えてしまうんです。女の子のためじゃなくて、彼らはチームのために走っていて、積んできたもののために走っている。ということで寒咲幹のコマが小さくなって、出番が少なくなってきているということになっているんですけれど……(苦笑)。
■プロフィール
渡辺航
長崎県出身 代表作に『電車男 でも、俺旅立つよ。』(原作:中野独人)。現在漫画誌『月刊少年シリウス』(講談社)にて『まじもじるるも 放課後の魔法中学生』、漫画誌『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて『弱虫ペダル』を連載中。
(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会