――スマホのアプリでの勤怠管理はありなのでしょうか?

前述のとおり、勤怠管理の方法に厳密な決まりはありませんので、スマホのアプリで正確な勤怠管理ができるのであればそれでも構わないとは思いますが、スマホのアプリだと虚偽の記載、改ざん、消去、書き加え等が簡単にできてしまうと思います。なので、現時点ではスマホのアプリによる勤怠管理は正確性が担保できず、通達には反していると思います。でも、簡単に虚偽の記載、改ざん、消去、書き加え等ができないようなアプリができればそれは勤怠管理の方法として認められます。

また、労働基準法109条により勤怠管理の記録は3年間保存しなければならないので、3年間確実に保存できる方法によらなければなりません。その意味では、他の媒体にデータを移さずに、壊したり紛失すれば使えなくなってしまうスマホのアプリのみで勤怠管理をするのは無理だと思います。

――会社で勤怠管理をしていない場合はどうしたらいいのでしょうか?

会社が勤怠管理をしていない場合、手帳や自分のPC上に出退勤時間を記載するなどして、自分自身で勤怠管理をするしかありません。後からまとめて出退勤時間を記載するのではなく、毎日その日の時間を記載する方が証拠としての信用性は高くなります。

また、30分単位のおおざっぱなものにするのではなく、1分単位で細かく記載されたものの方が信用性は高くなります。その他にも、会社のPCから自分が送信したメールの時刻が分かるようなものがあればそれを保存しておく等、客観的に自分がその時間に会社にいたことを示す資料はなんでも保存しておくことをお勧めします。

会社が勤怠管理をしていない場合、その会社は労働基準法で定められた義務を果たしておらず違法な経営をしていることになります。しかし、会社の責任であったとしても残業代請求の正確な証拠がないことには変わりません。

ただ、それでは、会社が自ら義務を怠っていることが理由で、却って、残業代を支払わなくていいことになってしまい不公平です。そこで、裁判例(大阪高判平成17年12月1日・ゴムノイナキ事件)では、会社がタイムカード等による出退勤管理をしていなかったことをもって労働者に不利益に扱うべきではないとして概括的に労働時間を推認して残業代請求を認めています。

このように、会社が勤怠管理を行っていなくても、他の証拠から残業代は認められます。本人自身作成のものでも、その信用性が高い証拠であれば、そこから労働時間は認定されます。

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。 動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。