パナソニックは、8月21日に筋力トレーニング機器「ひざトレーナー EU-JLM50S-K」を発売する。人間の動作と電気刺激を融合させた「ハイブリッドトレーニング」を行えるという製品だ。発売直前の8月19日には、ひざトレーナーについての技術セミナーが開催された。

ひざトレーナーは、主にひざ周りに不安を抱えている高齢者やウォーキング習慣のある人をターゲットとして開発され、「ハイブリッドトレーニング」という運動理論を採用する。ハイブリッドトレーニングとは、動作時に伸びる筋肉(拮抗筋)を電気刺激で収縮させることによって負荷を与え、効率よく鍛えるというもの。ハイブリッドトレーニングは、高齢者のロコモティブシンドローム(※)と宇宙飛行士の筋肉や骨の廃用萎縮についての類似性に着目して考案された。

※運動器症候群。日本整形外科学会によれば「運動器の障害による移動機能の低下した状態」のこと。

ひざトレーナー EU-JLM50S-K。左脚用と右脚用のサポーター、操作器から成り立つ

市場背景とターゲット

技術セミナーには、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙医学生物学研究グループ 技術領域主幹 主幹研究員 大島博氏、久留米大学医学部整形外科学講座 志波直人主任教授、パナソニック 商品企画部 ヘルシー・アクア商品企画課 課長 川治久邦氏が登壇した。

宇宙飛行士と高齢者に共通の課題

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大島博氏

大島氏は、宇宙飛行の医学リスクについて紹介したうえで、筋萎縮は高齢者と宇宙飛行士の共通課題だと語る。大島氏によれば、微小重力の宇宙では1日あたり1%の筋萎縮変化が起こる。加齢にともなう筋萎縮は、60歳以後だと1年で2%。つまり、1日の宇宙飛行で、高齢者の半年分と同等の筋萎縮変化が起こることになる。

この筋萎縮を防ぐために、宇宙飛行中は運動プログラムが用意され、宇宙飛行士たちは週6日・1日2時間、有酸素運動と筋力運動を行う。これら運動プログラムのためには大がかりな装置が必要だが、より多くの荷物を積み込めるスペースシャトルの退役にともない、大型の装置に代わるような小型かつ有効、継続可能な運動機器が求められているという。

宇宙飛行とベッドレスト、加齢の筋萎縮を比較

宇宙飛行中は運動プログラムが用意されている

小型のトレーニング機器が求められている

ハイブリッドトレーニングとは

久留米大学医学部の志波直人主任教授。通勤中にひざトレーナーを使っているという。セミナーにもひざトレーナーを装着して登場。スーツの下に装着できるほど小型で、はたから見てもトレーニング中には見えない

続いて、ハイブリッドトレーニングを研究・提唱している志波教授が登壇し、ハイブリッドトレーニングについて紹介した。先述のとおり、ハイブリッドトレーニングとは、動作時に伸びる筋肉(拮抗筋)を電気刺激で収縮させることによって負荷を与え、効率よく鍛えるというもの。志波教授は、加齢が原因のロコモティブシンドロームと、微小重力の空間に身を置く宇宙飛行士の筋骨格系の変化に類似性を見出した。

そこで、コンパクトな装置で、重力にかわる運動抵抗を自身の体内で生みだせるハイブリッドトレーニングを考案。伸びようとする筋肉に電気刺激を与えて、あえて収縮させることで、筋肉にかかる負荷を大きくする。これにより、トレーニングの効率がアップするだけでなく、弱い電気刺激で筋肉への負荷を高くできるというメリットもある。

ロコモティブシンドロームの本質は「ヒトの身体が重力に抗しきれなくなる」ことだという

運動と電気刺激を組み合わせたハイブリッドトレーニング

航空機を用いた無重力実験や、2009年度国際公募国際宇宙ステーション利用研究における実験などを経て、高齢者を対象とした臨床実験を行ったところ、ハイブリッドトレーニングは高齢者にも効果があることがわかった。そのハイブリッドトレーニングにもとづいたひざトレーナーを1回30分・週3回・12週間使用した場合、ひざを伸ばす力が41.6%、ひざを曲げる力が37.3%アップしたという(パナソニック調べ)。