服のシワは女の子を描く上でとても重要
「髪」の塗り方も肌のときと基本的には同じ手順だが、べた塗りではなく暖色から寒色へとグラデーションを付け、線画のときのように「つむじ」の位置を意識しながら上から下に流れるように髪に濃淡を付けて描いていく。塗り終わったらそのレイヤーを複製し、下側のレイヤーを明るい色やまったく別の色に変えることで、上の影が薄い部分だけ下のレイヤーの色が表れ、影の色に変化が付いて面白い仕上がりになるという。また、「服のシワ」も同様にレイヤーを複製し、下のレイヤーの色を変えて変化を付けるという。服のシワを描く場合、おはぎ氏はブラシの太さを頻繁に変えるという。太い筆から細い筆へ切り替えながら描き進め、再び太い筆に戻してタブレットの「透明色の切り替え」機能で消しながらぼかす作業をしていくそうだ。服のシワは女の子のイラストを描く上で非常に重要な要素なので、おはぎ氏はティッシュをクシャクシャにしたものを見ながら、ひたすら練習をしているとのことだ。
今回のイラストではシャツに透け感を出すために、CLIP STUDIO PAINT PROに備わる「レースリボン」ブラシを用いて、下のレースがうっすらと透けているように表現している。同ブラシは線を引くだけでレースが描かれるというものだが、レイヤーモードを白のオーバーレイに設定することで、下の色に応じてグラデーションが反映されるとのことだ。
また、アクセサリーの「宝石」については、前述した「三角テクスチャブラシ」を活用。べた塗りの円を描いたら、三角テクスチャブラシで少し濃いめの色でレイヤーモードを「焼き込み(リニア)」に設定し、Intuos Proのペンの筆圧を変化させてランダムな色・サイズの三角を描く。そして上から発光レイヤーで同様の操作で色を付けて、宝石っぽい雰囲気を演出しているとのことだ。シャツの「ボタン」に関しては、1クリックでボタンを描けるパターンブラシをCLIP STUDIO PAINTのWebサイトからダウンロードして活用しているという。
女の子の顔の要である「目」の塗り方を伝授
次に、おはぎ氏が「描いていて一番楽しい」と語る「目」の塗りについての説明に移った。白目の色は真っ白ではなく、わずかにグレーっぽくすることで肌と馴染み、よりリアルに表現できるという。白目の塗り方として、上から真ん中へ徐々に暗くなるようにグラデーションを掛けることで立体感が出るという。次に黒目に関しては上部が暗くなるように、エアブラシで影を付ける(乗算レイヤー)。次に発光レイヤーで瞳の下の方が明るくなるようにハイライトを付け、さらに上に重ねたレイヤーでもう一度発光レイヤーを使ってハイライトを入れていく。そして真ん中に「瞳」を入れて目のベースとなる部分は完成となる。
「まつ毛を描いているときが一番楽しい」
続いて、これまで作業した「線画」と「色塗り」のフォルダを「人物フォルダ」にまとめ、人物に影やハイライトを足したり、物足りなさを感じる部分に対して線画の上から加筆したりするという。また、イラストの要となる目の部分に関しては、黒目の周りを紫色で縁取って白目と黒目の境目を馴染ませたり、目に立体感を加えるために目の粘膜を描いたり、まつ毛を描き足したりするという。まつ毛は「生え方」を意識しながら、ハイライト的に描き足しているという。おはぎ氏は、これらの作業をするかしないかで絵の雰囲気がガラリと変わると述べ、「まつ毛を描いているときが一番楽しい」と明かした。
そして、前述した「カラーイルミネーション」ブラシを使って、瞳にキラキラ感を追加する方法についての解説となった。同ブラシは最初から黄色と水色に着色されているが、そのままでは瞳の雰囲気に合わないため、トーンカーブを使って色を赤紫ベースに変更したのち利用したとのことだ。
また、先ほど作成した「人物フォルダ」(「線画」と「色塗り」フォルダを格納したもの)の上にレイヤーを作成し、人物全体に影を付けているという。人物フォルダをクリッピングして、乗算レイヤーで紫色の影を描いていく。加えて、影レイヤーの上に加算(発光)レイヤーで光の当たる部分にオレンジ色でハイライトを乗せていく。さらに影の中の「照り返し」の当たる部分や端の部分に、水色などの明るめの色を付けると、より立体感が増すという。これらの作業を行うことで、イラストの雰囲気が一気に変わるということだ。
さまざまなブラシを活用して背景を描画
「背景」に関しては、三角テクスチャブラシで暗めの紺色から青→紫→薄紫へ変化するグラデーションを描き、パターンブラシで描いた紫陽花にオーバーレイで明暗を付けていく。同じく葉の部分もパターンブラシで描いたのち葉脈を描き足しているという。さらに人物の右側の紫陽花には乗算レイヤーで青い影を付け、明暗差で奥行きを出したということだ。このままでは人物が浮いてしまうので、紫陽花を人物の前に少しだけ描き足すとともに、エアブラシでオレンジ色を加えたり、カラーイルミネーションブラシでキラキラ感や光のボケを追加したり、「雨」を描くブラシで紫陽花にマッチした雨を降らせるなどして雰囲気を作り出し、最後に前述したテクスチャや、CLIP STUDIO PAINT PROが備える虹のグラデーション機能で作成したレインボーの素材にオーバーレイで重ねるなどして、ようやく完成となった。
おはぎ氏のイラストは、非常に繊細で煌びやかに作り込まれていることが見るだけで感じ取れるが、今回メイキングを見たことで予想以上に「仕上げ」に手が込んでいるという印象を受けた。おはぎ氏によれば、今回のようなイラストを描くのに8時間~10時間程度掛かるとのことだ。このレポートを読んでIntuos ProやCLIP STUDIO PAINT PROに興味を持った人は、是非両製品のWebページで詳細を確認してみてほしい。