ソニーのセンサー事業を支える「発想」
今回、高画質スロー撮影が実現できた背景には、新たに開発したセンサーの特殊な構造がある。
ソニーはCMOSセンサーのブランドに「Exmor」という名称を使っている。Exmorには主に3つのカテゴリーがあるが、コンパクトデジカメに広く使われているのは、裏面照射型である「Exmor R」だ。だが今回の新製品、RX100 IVとRX10 IIに採用されたのは「Exmor RS 」。Exmor RS は主にXperiaなどのスマートフォンで使われることの多かったブランドである。
じゃあ、RX100 IVにはスマホ向けセンサーが使われているのか、というと、もちろんそうではない。「Exmor RS 」の「RS」は、スマホ向けという意味ではないからだ。
この辺の事情を知るには、裏面照射型センサーの構造を知るのが近道だ。
裏面照射型センサーとは名前の通り、半導体基板の「裏」から光を照射して検知するものだ。従来のCMOSセンサーは回路面の奥に受光部が存在する構造になっている。その構造は、穴の奥で光を受け取るのに近い。光子のサイズからみれば、「まるで井戸の底で光を受け取るようなもの」(ソニー・技術者談)だという。
それでも、一眼レフに搭載するような大型センサーでは、構造面の不利は小さかったという。だが、コンデジやスマホに使われる小型センサーの場合、「井戸の底で光を受け取る」構造は不利で、暗所撮影には弱い、という時期が続いた。
そんな状況を一変させたのが「裏面照射型」という発想だ。半導体基板の裏を可能な限り削り、裏から光を受け取るようにしたのである。その結果、スマホやコンデジの暗所撮影性能は劇的に改善された。裏面照射型はソニーの専売特許ではないが、他社に先駆けて「高画素・高画質」の裏面照射型センサーを量産し、Exmor Rブランドで広めたことが、現在の「センサーにおけるソニーの強み」を生んだ。
裏面照射型センサーがさらに進化
一方で、裏面照射型センサーは基板を削る関係上、センサーが載った基板が薄くなりすぎる。実際の製品では、センサー基板の裏に「保持基板」を貼り付けて剛性を確保する。さらにセンサーの周囲には、センサーから得た情報を処理して動画・静止画にするための回路がある。その面積は馬鹿にならないものだ。そのため、基板の全面積を「光を受け取るセンサーそのもの」に与えるわけにもいかなかった。
ソニーはそこに、さらにコロンブスの卵をもち込んだ。処理回路をセンサー面ではなく、保持基板側に持っていったのだ。裏面照射型センサーには、保持基板は必須。だかこれまで保持基板は単なる板で、特別な機能はなかった。そこに処理回路を持っていけばセンサーサイズを稼ぎやすくなるし、処理回路そのものも大規模化しやすい。一石二鳥である。これが、ソニーが2012年夏に発表した「Exmor RS」だ。
Exmor RSは、まずはスマホ向けに使われた。スマホの写真において、ノイズ除去などの機能を実装するには有利な構造であったからだ。だが今回、RX100 IVなどに使われた1インチサイズのExmor RSの処理回路には、映像処理系ではなく、大容量の高速DRAMが搭載された。センサーの近くで映像データを一時的に貯め込み、スロー撮影や高速シャッター撮影を実現するためだ。撮影後の処理速度を上げるにも効果的で、カメラ全体のレスポンス向上にも一役買っている。
もともとの計画では、Exmor RSは画像処理機能を一体化したセンサー向け、と言われてきた。例えば、センサー画素をRGB+「白」にして輝度を上げる4色画素撮影や、低ノイズ撮影などが挙げられる。しかし、処理用LSIは別途搭載することもできるし、4色画素の技術開発は難しい。メリットがはっきり出やすい用途として、DRAM搭載型に舵を切ってきたのでは……。筆者はそんな風に予想している。
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