隠居の支度

誤解されると困るのですが、私は隠居生活を紹介はするけれど、すすめているわけではありません。ですから、「いま自分がもし会社員だったら、隠居するためにどうするか」という仮定でお話をしていきたいと思います。

私なら、2~3年のスパンで実現させるでしょう。何の予告もなく、いきなり「隠居します! 」と宣言したら、周囲を不安にさせることが予想されます。説得するのもめんどくさい。こういうのは波風を立てずに、なし崩しに社会からフェードアウトして、「そういえばあの人いなくない? 」とあとから思われるくらいが理想的です。

まずは引っ越し代や敷金礼金などの初期費用とともに、貯金を始めます。大体自分の生活費から割り出して、半年分くらいのたくわえがあればとりあえずは安心です。そして、少しずつ身辺整理をし、質素な生活に移行していくのです。

モノや人、ぜいたくな消費行動などがなくても平気なように自分を慣らします。生活の最低基準をぐっと下げておくのが肝要です。同時進行で、家賃が安くて、駅遠でアクセス不便な住みよい街をリサーチ。仕事は食べていける程度に、週1~4日の間で自分が快適なペースを選びます。

十分な条件がそろったら、更にもう少し様子を見ます。慌ててはいけません。そして、リーマンショックなど大事件後のどさくさにまぎれて会社を辞め、華の隠居生活をスタートさせるでしょう。

生き方の選択肢とライフスタイル

隠居というライフスタイルは、選択肢のひとつにすぎません。絶対に正しいわけでもないし、万人に合うとも思えません。私は、自分以外の誰かのために隠居しているわけではないのです。

生き方には様々な選択肢があります。「働くか働かないか」という二元論ではなく、その中間のどこかに、みなさんが自分にとって快適なライフワークバランスを見つけるヒントになれば、隠居としてはちょっとうれしいかもしれません。


大原扁理(おおはらへんり)
愛知県生まれ。東京都在住、高校卒業後、3年間ひきこり、海外一人旅を得て、現在隠居5年目。著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』(K&Bパブリッシャーズ)がある。ツイッターブログ