――市原さんといえば、個人的に「ストイックな役作り」という印象が強いです。
そうですね(笑)。でも、役への入り方はデビュー作の『リリイ・シュシュのすべて』(01年)から変わっていません。あの時と同じ気持ちで、今もずっと臨んでいます。例えるなら、子どもが積み木を重ねるような気持ち。そういう状態で、いつまでも現場にいられたらいいなと思います。できるだけ無駄なものを除いて現場にいたい。「やらされている」ではなくて、「自分がやりたくてやっている」を第1に。
ボクサーの役だったらボクシングを徹底的にやりますし、精神的に追い込まれている役だったら体重を落とします。役作りの方法はいろいろありますけど、根本の気持ちの部分はずっと変わりません。自分としてはアクションも普通の芝居も感覚としては同じ。役作りも体を使うものなのか、感情を使うものなのかの違いだと受け止めています。
――『カラマーゾフの兄弟』のように食事制限をしている中で、「この仕事、嫌だな……」とか密かに思うことはないんですか?
つらいときありますよ(笑)。49キロまで落として何が何だかわからなくなる状態になりましたが……それがまた好きになれてしまうんですよね。また、そこを目指したくなる。役者って変な仕事ですよね(笑)。
――三池監督は、本作を"原点回帰"と位置付けているそうですが、市原さんにとっての"原点"とは?
どんな現場に行っても一番最初の作品(『リリイ・シュシュのすべて』)のことは浮かびますね。最初の作品があって、この世界に入って、今はこういうことができている。改めて、ありがたいなぁとしみじみ思います。どんなキャラクターを演じていても、必ずどこかでふと思い出します。今でもすごく大好きな作品で、カメラマンの篠田(昇)さんも、岩井(俊二)さんも大好き。内容はすごくハードなんですけど芸術的で、映像もすごくきれいな作品です。
――デビューが良い作品だったというのも幸運ですね。
何にも分かってなかったですけどね(笑)。あの作品で、数ページにわたっての長台詞があったんですよ。フィルム撮影だったんですが、撮り終えるまでに要したのは64テイク(笑)。いかに何も考えてなかったかが……台詞も覚えていなかったですから当たり前ですよね。
芝居の「し」の字も知らないころ。すごく有名な役者さんとやると聞いて、自然にやればいいんだと思って台本も見ずに現場に入って、相槌打って適当に動いて。「そっちの方がいいね」とか言ってもらえましたが、結局丸々一日潰れました。(蒼井)優さんと一緒だったなぁ。15年ぐらい前ですか。懐かしいですね。
それから最近は物事に対する考えが徐々に変わっていきました。本気で笑えて、本気で泣けて、本気で悔しがって。そういう根源を大切にし続けないといけないなと。これからも役者の務めるべきことを全うしていきたいですし、もっともっと挑戦していきたいですね。
――そういう思いがなかったら、今回のようなぶっ飛んだ作品で声が掛かることはなかったわけですね。
本当ですね。あの頃の自分に見せてあげたい(笑)。でも、環境はあの時と何にも変わっていないんですよ。地元の仲間もずっと一緒。当時のスタッフにも会ったりしますし、今でも親しい人の中にはあの頃に知り合った人もいます。……10年後どうなってるのかな(笑)。
■プロフィール
市原隼人
1987年2月6日生まれ。神奈川県出身。2001年の『リリイ・シュシュのすべて』で映画主演デビュー。2003年に『偶然にも最悪な少年』で、日本アカデミー賞新人賞を受賞した。その後も多数の映画・ドラマ作品に出演。映画『極道大戦争』の公開(6月20日)同日には、4年ぶりとなる写真集「G 市原隼人」、そしてショートフィルム「Butterfly」DVDが発売される。