緒方拳さんが加藤の演技を絶賛
もう1つ加藤に会えたらどうしても聞きたいことがあった。それは俳優業をどう考えているのか? 数多くのドラマに出演し、「あの緒方拳さんが加藤の演技をホメ称えた」というほどの演技上手なのだが、2012年の大河ドラマ『平清盛』以来、休養状態なのだ。
「(照れながらも)オファーがないんですよ。ホントなんですって! まあ、(俳優業が)ムチャクチャ好きってわけでもないんですよね(笑)。だって、『平清盛』のときも大変でしたから。スタッフさんには気をつかってもらっていましたが、それでもしんどかったです」
いかにも正直なコメントだが、お気に入りの出演作品を尋ねると、しばらく考え込んでから話しはじめた。
「(香取慎吾主演の月9ドラマ)『人にやさしく』は(香取、松岡充と)3人でいろんな話ができて楽しかったですね。もう13年前のドラマですから、ときどきテレビ局で会ってあいさつするくらいで、今つき合いは全くないんですけど(笑)」
その他の連ドラでは、田村正和主演の『オヤジぃ。』では水野美紀にホレる医療機器営業マン、妻夫木聡主演の『ブラックジャックによろしく』では主人公の同期医師、江口洋介主演の『逃亡者 RUNAWAY』では主人公を追い詰める警視庁管理官、山下智久主演の『クロサギ』ではクレバーな詐欺師、草なぎ剛主演の『僕の歩く道』では障害を持つ主人公の主治医、西野亮廣主演の『示談交渉人 ゴタ消し』では犯罪グループの黒幕など、ことごとく重要な役を演じてきた。
なかでも私が最も聞きたかったのは、主演の飯島直子と何度となくベッドシーンをこなした『汚れた舌』の話。ここまでの濡れ場を演じる芸人は珍しく、当時は強烈な印象を残していたからだ。加藤にこの役について尋ねると、「(照れながら)オファーがあったからやったんですよ。恥ずかしいかどうかは別にして、僕は役を決められないから!」と照れ笑い。最後に、今後オファーがあったら俳優業をやるのか尋ねてみた。
「オファーをいただけるんでしたら、スケジュールが許す限り出たいですよ。でも(俳優業が)『好きか嫌いか』って言ったら、わからないです(笑)。だって、本気の役者さんに悪いですもん。そういうみなさんから見たら僕なんてお客さんなので、(もし出演したら)番宣を頑張るだけです」
芸人としての大暴れにも期待
仕事でもプライベートでも、「新たに挑戦したいことはない」と話す加藤。「どんな仕事をやりたい?」と質問を変えても、「僕は仕事をもらう側なので何でも」と流れに身を任せるスタンスを崩さない。加藤の出演番組は長寿になることが多いのだが、それも「ずっとスタッフが変わっていないおかげ」と最後の最後まで謙虚だった。
これほどの実績を重ねてなお、「僕なんて何者でもないですから」と言い切る謙虚さ。さらに、好意的に話しながらも、決して失言をしない抜け目なさ。朝から夜までどんなジャンルでも対応できるスキルも含め、すでに芸人の枠を超えた存在であることは間違いない。
もし『スッキリ!!』や『ガッチリマンデー!!』のMCを卒業して自由な時間と立場が得られたら、再び芸人として大暴れしてくれるのではないか……コントライブを見る限り、その気持ちやスキルは失われていないように感じる。
■加藤浩次(かとうこうじ)
1969年4月26日生まれ。北海道出身。高校卒業後に上京し、東京ヴォードヴィルショーの研究生をへて1989年に『極楽とんぼ』を結成。初のレギュラー番組『とぶくすり』への出演をきっかけにブレイク。芸人としての活動に加え、MCや俳優など、さまざまなフィールドで活躍を続ける。
■木村隆志(聞き手・文)
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。