スマホ+ナビが車内のユーザー体験のすべてになる
完全自動運転車では、今のような小さなナビの画面ではなく、もっと大きなディスプレイが複数搭載されるようになるだろう。そこに、CarPlayやAndroid Autoといった技術でスマートフォンを接続すれば、スマートフォン内のコンテンツやゲームなどを楽しむことができる。Windows Phoneなら、ContinuumでPCモードにして、仕事の書類を編集するかもしれない。
さらに、位置情報から近在の広告を表示したり、目的地の割引クーポンが発行されるといったサービスもありうるだろう。タクシーなら、広告収入に転嫁することで、運賃の割引(あるいは無料化)が受けられるかもしれない(前述したように、タクシーは自動化で運賃を大幅に安くできる)。ちょうどインターネットの無料サービスと同じビジネスモデルが、リアルのタクシーにも展開されるわけだ。こうなれば、ますます人々は自家用車を持たず、無人タクシーを使うようになる。
AppleやGoogleが相次いでスマートフォンをカーナビに接続する技術を投入してきたのは、まさにこうしたビジネスモデルを自動車産業の中で展開していきたいという思惑が感じられる。今やスマートフォンは、ユーザーのあらゆる個人情報を収めた宝の山だ。そこにモビリティのデータまで含められれば、その価値はさらに向上する。CarPlayにせよAndroid Autoにせよ、現段階ではユーザーが所有するクルマが対象だが、やがて自動運転車が普及する世の中まで視野に入れている、というのが筆者の見解だ。
おそらく、DeNAが今回のオートモーティブ事業で狙っているのが、こうした自動運転車でのコンテンツや体験といったものではないだろうか。自動運転の先にあるものがモバイルとモビリティの融合という点では理解が一致しているが、DeNAは独自のスマートフォンOSを持っていないため、このままではスマホにナビを乗っ取られてしまう。その前に、自分たちのコンテンツや広告を配信するモデルを構築してしまわねばならない。GoogleやAppleといった黒船に市場を荒らされる前に、確固たる地位を築いてしまおうというわけだ。
自動運転の実現には、法律の改正を含め、さまざまな関係機関の調整が必要だが、国際的にも自動運転こそがモビリティの未来であるという共通認識が広がっており、世界的にも法律改正の方向に動いている。まして、国内だけでも周辺産業を含めると数十兆円規模といわれる日本の基幹産業である自動車産業が迎えた、100年に一度の大変革だけに、行政からのサポートも大いに期待できる。ZMPとDeNAは今回の発表で、2020年の東京五輪に合わせ、自動運転タクシーを東京都内で走らせたいという夢を語ったが、案外もっと早い段階で我々の眼前に現れることになるかもしれない。