iPhoneをメディア消費に使う際の問題点

前回からの続きです。筆者の日常の中で、iPadはメディア消費のためのデバイスとして毎日使っています。しかし部分的に、その役割を、画面が大きくなったiPhoneが奪いつつあることも事実です。例えばKindleでの読書。どんな本でも文庫本のようなサイズ感で読み進められることが、体験として良いのかどうか分かりませんが。

おそらくAppleも、影響がどこまで大きく出るかの予測が当たったかどうかは別として、iPhone 6あるいはiPhone 6 Plusを登場させる際、iPadの一部の役割をiPhoneが奪う結果になることは分かっていたのではないでしょうか。非常にパーソナルかつモバイル環境でのコンテンツ消費の際、常に手元にあるiPhoneがより最適なデバイスになる。そんなストーリーを描かなかった方が不自然とも言うべきです。

iPadの気に入った使い方の1つはニュースチェック。FeedlyやFlipboardなどのアプリでニュースを読む時、デスクでMacでも、iPhoneの小さな画面でもなく、iPadを使っている

とはいえ、iPhoneでの読書やビデオ視聴中、一つ不満があります。それは、画面上部に届く通知が邪魔、ということです。加えて言えば、メディア消費に類するアプリを使っている時には、Apple Watchがちゃんと仕事をしろ、と言いたいです。iPhoneのロックが解除されている状態、すなわちユーザーがiPhoneを使っていると判断される場合、Apple Watchには通知が届かず、iPhoneに届く仕組みです。つまり、Apple Watchは、ユーザーがiPhoneを使っているときはサボるわけです。隙あらばサボれ! これは15年以上前の日本のケータイも含めて、モバイルデバイスの特徴であり、Apple Watchの態度もモバイルデバイスの鑑です。電波の受発信、バイブレーター、プロセッサの処理、ディスプレイなど、不用なときはできる限り使わない。

ケータイ時代、「バリ3シンドローム」という言葉がありました。ケータイの電波が3本入ってないと不安になる、というケータイのコミュニケーションにどっぷり浸かった若者の話です。そのおかげでケータイを振ると電波の入りが良くなるという都市伝説が流行ったり、明らかに電波の受信効率を下げそうな1mの長さのアンテナに交換したりしていましたが、バリ3の時の方が消費電力が少ないので、長くコミュニケーションが取れるという意味ではその不安も、技術的な意味があったのかもしれません。

記憶が15年ほど吹っ飛んでしまったので話を戻します。

サボる仕組みが備わっているApple Watchの続き。iPhoneがロックされていてApple Watchを装着していると、Apple Watchが鳴動し、iPhoneのディスプレイは点灯せず通知を受け取ります。これが一通りの挙動ですが、できれば、iBooksやKindleでの読書中、YouTubeなどでの映像視聴中も、iPhoneに届く通知をApple Watchに転送して欲しいな、と思うのです。画面上部に通知が届くのは邪魔で、時々フライトモードにして読んでいます。まあそれでも解決はするのですが、LINEできなくなっちゃうじゃないですか。

Appleが考える、iPadらしさの発見

iPhoneにジワジワと浸食されつつあるiPad。ではiPadの逆襲はあり得ないのでしょうか。 前述のiPhoneの通知が邪魔、という話も少しヒントになりますが、やはりiPadの特徴である画面の大きさ、そして「iPhoneではないこと」が、iPadらしさ、あるいはiPadらしい使い方を考えるヒントになるのではないでしょうか。

AppleはiPadのプロモーションサイトを開設しました。「Everything changes with iPad.」というタイトルがつけられた特設ページ。ここでは、5つの場面、「クッキング」「学ぶ」「スモールビジネス」「旅に出る」「模様替え」で、どのようなアプリでiPadを活用するかを紹介しています。

これらのストーリーを見てみると、なるほどと思わせる部分が多々あります。Macでやれば良いじゃないか、iPhoneでやれば良いじゃないか、同じアプリもあるじゃないか、と思う部分もありました。しかしながら、実生活で考えてみると、そうしたツッコミがだんだん勢いを失っていくにも気づかされます。キッチンで、自立するスマートカバーがついていて、より画面が大きなiPadを使ってレシピを見る。レジでSquareでカード決済をする際、お客さんを待たせないように素早く操作する。家具や装飾の配置を検討するとき、大きなiPadの画面で合成した結果を見る、など。これらはAppleが提示した、「iPadらしい使い方」の例です。いずれも、画面サイズのメリット、デバイスとアクセサリによって、利用シーンを創り出している様子を見つけることができます。一つずつ見てくと、視認性、操作スピード、疑似体験性といった点で、iPadがiPhoneに勝る、と判断できます。

サンフランシスコのコーヒー焙煎所、サイトグラスのレジ。サイトグラスに限らず、新興の焙煎所では、SquareとiPadでレジを作っている

上記のメリットは画面サイズに起因しています。「iPhoneにはない」というメリットは、「電話」という割り込みがない、という点で片付きます。例えばiPhoneでレシピを表示しながらキッチンで料理をしていたり、iPhoneで店頭でSquare決済をするとき、もし電話がかかってきたらこれらの作業を中断せざるを得なくなってしまいます。もちろんiPhoneになるべく集約する方向性は変わらないでしょう。同時に、より効率や便利さを求める際、別のデバイスの必要性が出てくるわけです。

Appleはそこをこれから喚起しようとしているのではないでしょうか。もちろん、Appleの売上につながるわけですが。