調査の結果を受けて、当時のダイバーシティ委員会は、仕事と家庭の両立支援制度についてわかりやすく解説した『D-BOOK』というブックレットを作成し、全社員に配布した。制度については社員規程集にも載っているが、簡単な言葉で伝えることによって、制度の活用促進につながったという。

――このほかに、どんな取り組みが?

江木さん「女性限定の『エンカレッジ研修』を実施しました。2011年9月の初回には、工場で働く人から営業、サポート業務のスタッフまで、さまざまな年齢の女性84人が自主参加しました。1泊2日の研修で、自分のキャリアや強みを総ざらいして、その後の自分のキャリアプランを作ったんです。初日の懇親会には社長も出席して、会社が女性の力に期待していることをトップが直接自分の言葉で伝えました。『仕事へのモチベーションを初めて持てたと』いう声が多かったですね」。

このほか、年に1回、『ダイバーシティフォーラム』を開催しています。全国から約400人が参加しまして、経営陣のメッセージを聞いたり、外部から講師を招いて勉強したり。ダイバーシティをテーマに交流する『晃さんと語ろう』というイベントもあります」

――「晃さん」って……松本会長ですよね?

江木さん「そうです。けっこう人気があるんですよ、このイベント。経営トップが『女性の力を活用したい』と語れば、社員にも会社の本気度が伝わりますよね。以前行った時はイベントの終わりに、、ボードに『ダイバーシティ推進のために取り組むこと』を書いて、写真撮影。その写真はイントラネットで公開しました。言葉にして約束することで、ダイバーシティは確実に前進するんです」

昇格も降格もあり

カルビーのユニークなシステムのひとつが「チャレンジ制度」。この制度にはいくつかのコースがある。例えば「役職チャレンジ」。課長職または部長職にチャレンジしたい人が、本部長全員の前で、これまでの実績や「課長(または部長)になったらやりたいこと」をプレゼンする。

江木さん「社員なら誰でもチャレンジする権利があります。課長を飛び越えて、部長にチャレンジしてもいいんです。今までのところ、部長チャレンジからは毎年1~2名、課長チャレンジでは3~4名が抜擢されています」

――すごいチャンス! ですが、チャレンジ失敗もあるわけですよね

江木さん「もちろんです。でも、チャレンジしたこと自体は評価されますし、チャレンジ後には出席した本部長たちから『ここはいいが、これが足りない』とか、『ここをもっと勉強するといい』などのコメントが書かれた評価シートがもらえます。これが大好評で、思いはかなわなくても、上の人にちゃんと受け止めてもらえたということが、モチベーションにつながっていくようです」

――でも、女性の管理職が増えれば、その分男性のポストは減るわけですよね。

江木さん「管理職に女性の割合を増やしたいのはもちろんですが、女性だからといって昇進できるわけではありません。男性、女性に関わりなく、優秀な人がふさわしいポストに就くというだけ。成果を上げられなければ、これも男女問わず、降格もありえます」

――降格! 厳しいですね……

江木さん「実は私にも経験があります。2010~11年までは本部長でしたが、12年には部長、翌年はまた本部長。キャリアのアップダウンが激しいんです(笑)。でも、降格したときは、自分でもその理由に納得できたので全く気になりませんでした。それに、管理職を経験することは、自分の成長にとって確実にプラスになります。女性で『役職チャレンジ』する人はまだまだ少ないですが、やってみて損はないんですよ」

女性管理職が集まる『アネゴネットワーク』

――管理職って大変なことも多いような気がしますが、やっぱりいいものでしょうか?

江木さん「たしかに端から見ると、あまり魅力的な仕事と思えなかったかもしれません。でも、昔ながらの男性的なやり方を見て、『管理職なんて面倒ばかり』と思い込むのは、もったいないと思うんです。ですから、男性のやり方を見て大変だと思うより、管理職として活躍する女性がロールモデルとなって、『あんな風になりたい』と思ってもらうことが大切なんです」

――既存のイメージにとらわれず、"なりたい管理職"像を探すということですね

江木さん「そうですね。それと同時に、女性には女性ならではのライフイベントや悩みもありますよね。そんなときどうしたらいいか、女性管理職に直接ぶつける場があれば、と立ち上げたのが、『AGNネットワーク』。AGNはANEGO(アネゴ)Networkの略です(笑)。女性管理職は自動的にこのメンバーになって、交流することができます。不定期開催ですが、女性管理職だけの食事会や、社内から男性本部長を招いてのレクチャーなども行っているんです。今女性活躍の波は来ています。ダイバーシティは長丁場で取り組まないといけないですが、少しずつ仕組みを変えていければと思っています」

――ありがとうございました。

女性が活躍する企業では、女性が特別扱いされているわけではなかった。みんなが自分のなりたい姿を目指して"当たり前"に働ける会社が、結局は女性が活躍する企業だと言えるのかもしれない。