求められる「スリム化」
今回のスカイマーク再建は、JAL破綻のケースと比べてどう違うのだろうか? JALは会社更生法を申請してから2年7カ月で再上場を果たし、「奇跡のV字回復」とも称された。その一方で、大量の人員削減によりパイロットをはじめとした専門技術職などの人材がLCCなどに流出したのも事実である。ただJALの場合と比べると、スカイマークのコスト構造はすでに業界でも優位にあり、すぐに削減できる要素は多くあるわけではない。
今回の再建にあたり、スカイマークは「基本的に雇用は維持する」と明言している。しかし現に20%の事業縮小を行っており、今後、整備や予約、販売などいくつかの業務はANAに移管されるものも出てくるだろうから、余剰人員を抱えている状態にあることは否めない。自然退職に加え、さらに組織・人員のスリム化、賃金等の労働条件の見直しを進めることは、債権者の理解を得る上でも避けて通れないだろう。
これに加え、再建のカギを握るのが収入構造の改善だ。減便・減席により利用率は2014年12月と2015年1月の55%から、2月は69%、3月は78%まで回復したが、旅客数は前年比78%まで落ち込んでいる。コードシェアによるANAからの買い取り収入によって利用率の底上げを図ることが急務だが、通常コードシェアの買い取り価格は2割程度は安い"卸値"であるため、旅客単価は下がってしまう。
スカイマークは5月以降の自社運賃も普通運賃をはじめ全般的に値下げしているので、「利用率はとても高いが総収入が足りない」事態も懸念される。一層きめ細かな運賃・座席のコントロールが求められる。
また、ANA側の事情を考えると、例えば羽田~福岡/札幌線で「ANAの特割よりスカイマークの普通運賃のほうが3,000~4,000円安い」という現実がある。他のコードシェアをしている航空会社ではこのような例はないので、一体どのようなコードシェア便の価格設定をするのかも注目すべき点であろう。
エアバス社への賠償金問題
再建計画は6月に行われる債権者集会での承認を得なければならないが、最も注目されるのはエアバス社、イントレピッド社との損害賠償金交渉の行方である。これはスカイマークが解約した6機のA380購入契約と7機のA330リース契約に対する賠償金だ。
エアバス社等はスカイマークに対し、800億円超(エアバス社から)と1,000億円超(イントレピッド社から)の債権の届け出を行った。これはスカイマークに対して届出のあった、全ての債権3,100億円の6割にあたる。これに対し、スカイマークはエアバス社等の債権は存在しないとして全額否認している。
また、他の債権についてスカイマークが認めた債権額は90億円にすぎない。この債権額は手元現金からの逆算のようにも見えるが、機体リース債務の構造からしても債権はないという「ゼロ査定」は航空業界の常識では考えられないことだ。
「スカイマークが解約した機体が新たな使用者に落ち着くまでは、エアバス社等の実際の損害額は計算できない」ということも解決の道筋を見えにくくしている。債権者としてはこのような状況下ではいつまでたっても売れないという最悪のケースを想定した計算に基づいて、最大の債権額の申告をしているのが現状だろう。
仮にエアバス社等が2年以内に全ての機材の再販処理ができれば、最終損害額は届け出額の20~30%程度までは圧縮される可能性がある。しかし、他の債務を含めたスカイマークの弁済原資は総額で180億円なのだから到底足りない。裁判所の査定額、債権カット比率をエアバス社等が受け入れるかは予断を許さない状況にあるといえる。
最悪のシナリオはエアバス社等が納得せず、債権者集会で再建計画が否決されることだろう。とは言え、エアバス社等にとって今後も日本の航空会社は大きな顧客であり続けるので、短絡的にこのような結末を迎えることはないとの見方も根強い。
インテグラルがANAをスカイマークのスポンサーに選定した理由のひとつが「大口債権者の意向」だったことからも、エアバス社等がANAによる再建支援に期待し、何らかの妥協が行われる可能性は十分にある。手元現金による弁済とは別の形で、例えば再建後の事業収益から追加的に分割払いするといったウルトラCだってあり得るかもしれない。
スカイマーク再建にはこのように幾つかの大きなハードルが残されているが、新経営陣がどのようにこれをクリアしていくのか、そしてJAL・ANAに続く"第三極エアライン"としての存在感を維持するためにインテグラルがどのような手を打つのか、しっかり見定めていきたいものである。
筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。