――それではほかの収録曲についてもお伺いします。まずは「カリキュラマシーンのテーマ/3はキライ」
高橋「『カリキュラマシーン』は、私が小学生のころに放送されていた番組なんですけど、すごく面白かったんですよ。その中でも、この曲のイントロが衝撃的でした。今回の楽曲でもそのテイストは残しているのですが、とにかく演奏が難しくて、ミュージシャンの方は、本当にプロ中のプロという方ばかりだったにも関わらず、みんな楽譜から目がまったく離せない状況でした。しかも今回は一発録りだったので、緊張感もすごかったです(笑)」
――続く「ひこうき雲」は荒井由実(松任谷由実)さんの曲ですが、最近で『風立ちぬ』でも使用されていましたよね
高橋「これは大月さんのチョイスなんですけど、私にとってもすごく思い出深い曲なんですよ。小学3年生くらいの頃、私は父親からピアノを習っていたのですが、すごく嫌で(笑)。本当に、嫌々習わされているといった感じだったのですが、ちょうどその頃、テレビで由実さんが弾き語りをしているのを観て、身体に電流が走ったんですよ。なんでしょう、このサウンドは、こういう表現もあるんだって。もうショックを受けて、すぐ楽器屋さんに行って、楽譜を探しました」
――その衝撃というのは曲に対してですか?
高橋「曲も、歌い方も、歌詞も、すべてですね。もうすべてが新しかった。こんなに素晴らしい表現の仕方があるんだって、すごい衝撃を受けたんですよ。ちょうどその時に買った楽譜は弾き語り用で、その中に『ひこうき雲』も入っていました」
――選曲した大月さんだけではなく、高橋さんにとっても、本当に思い出深い楽曲なんですね
高橋「その後、私は由実さんのコーラスを5年間ほどやらせていただいているのですが、そのときは本当に、荒井由実、そして松任谷由実の世界にどっぷりと浸かった5年間だったので、いつかこういう機会があればぜひ歌わせていただきたいと思っていました。ただやはり、原曲に勝るカヴァーというのは本当に難しくて、今回歌ってみて、あらためて由実さんの偉大さを知りました」
――「真っ赤なスカーフ」は、今回唯一、原曲が男性ボーカルの曲ですね
高橋「こちらも大月さんのチョイスですが、先ほどもお話したとおり、前回から候補に挙がっていた曲なのですが、今回あらためて歌うことが決まったとき、どういったアプローチで行くべきか、けっこう悩みました。男性ボーカルのイメージが強いので、不安もありましたし、歌うための勇気も必要でした。でも、とても素晴らしいアレンジをしていただいたおかげで、等身大の自分で歌うことができて、すごくいい感じで収まったのではないかと思います」
――高橋洋子版の「真っ赤なスカーフ」という感じですね
高橋「今回、音楽的な部分のアレンジは、すべて笹路(正徳)さんにお任せしました。もちろん最初に、自分なりの思いはお伝えしたものの、それはあくまでもひとつの提案で、笹路さんが良いと思うようにしてくださいというオファーをさせていただいたのですが、本当にすばらしいアレンジをしていただけたと思っています」
――小坂明子さんの「あなた」にはかなり思い入れが強いと伺っていますが
高橋「すごく大好きな曲で、絶対に歌わせてくれとお願いして歌いました(笑)。子どものころ、本当によく歌った曲で、私の原点ともいえる曲なんですよ。意外と若い方はご存じないようなんですけど、そんな方が聴いても、良い曲だってわかるくらいの名曲ですから、20世紀の曲を紹介する上では、絶対に外せない曲だと思います」
――実際に歌ってみていかがでしたか?
高橋「あらためて名曲だと思いました。現在、歌を歌う機会ってすごく増えていると思うんですけど、『あなた』のような曲を、正確に歌うことが出来たら、ほかの曲もけっこう歌えるようになるんじゃないかと思います。音域も広いし、さまざまな良い要素がたくさん含まれている曲ですから」
――『一休さん』からは、エンディングテーマの「ははうえさま」が収録されています
高橋「実は私、エンディングフェチなんですよ(笑)。以前からこの曲は名曲だと思っていたので、ぜひ歌いたいと言っていたのですが、前回は却下されちゃって……。『一休さん』はないよって(笑)。でも、どうしても歌いたかったので、あらためて今回強く推してみました」
――いいバラードですよね
高橋「ですよね! 本当にいい曲だと思うので、知っている人も知らない人も、あらためてじっくりと聴いていただきたいと思います」
――『ふしぎなメルモ』の主題歌では、面白い取り組みが行われていますね
高橋「手塚作品から一曲入れたいと思っていて、いろいろな候補が挙がったのですが、その中でもこの曲は、自分が10才のころにカヴァーしたことがあったので、当時の歌声と今の私が、時空を超えてデュエットしたら面白いだろうなと思って提案しました。ただ、それを実現するためには、まずマルチトラックの音源を探すところから始めなければならなくて(笑)」
――よく音源が残っていましたね
高橋「本当によく残っていましたよね。実際に歌ってみて感じたのは、10歳の頃の私はパンチが効いているんですよ、若いから。その声にはやっぱり敵わない(笑)。あと、『ふしぎなメルモ』の歌詞って、大人になったり、子どもになったりするじゃないですか。それを、子どもの私と大人の私が歌っているわけですから、すごく不思議な一致だと思いませんか? これは後になって気づいたことなんですけど」
――最初から狙っていたわけではないのですか?
高橋「本当に偶然の一致です(笑)。手塚先生の作品で、自分が10歳の頃にソロで歌ったのがこの曲しかなかったから採用されたわけで、本当に不思議な縁だと思いました。今回のアルバムは、自分が20代のころにコーラスをやっていた由実さんの曲であったり、はじめてソロでレコーディングした曲であったり、昔から大好きだった曲であったり、私の歌の中で、皆さんに一番知っていただいている曲であったりが収録されているわけですよ。そういう意味では、原点回帰というわけではないですけど、自分のこれまでを振り返りつつ、今後どうしていくのかをあらためて考える機会をいただけたのではないかと思っています」